読む快楽

活字中毒患者です。朝15分読まないと起き上がれない。最低1時間読まないと眠れない。夢中になって読んだ本を教えずにいられない。おもしろい本、 常時募集中!

「ゲルマントの方」I II

マルセル・プルースト著

鈴木道彦訳

集英社文庫ヘリテージシリーズ

 

昨年から「失われた時を求めて」を読み返しています。

読み返す、というと昔ちゃんと読んだみたいに聞こえるでしょうが、そうではありません。以前は面倒なところはすっとばして、おもしろそうなところだけを読んでいました。よく引用される有名なシーンとか、恋愛、性愛、愛憎のシーンとか。

で、今回もじっくり一語一語かみしめるようにというのではなく、やはりおもしろいところを拾って集中的に読んでいます。

ところが、10年以上前に読んだときとちがうところにひかれて、読み返すというよりもはじめて読んだ感ありです。

それに、年をとったおかげで、小説そのものだけでなく、登場人物の心理や行動に対する理解も深まった気がします。舞台は100年以上前のヨーロッパですが、いまの私が読んでも「人間ってほんと変わらないんだな」と共通点が見いだせる。とくに男女や親子関係はこれだけ世の中が変わっているというのに同じだし、バカな人間のバカさ加減はまったく変わらない。

いまになって初めて、この小説の読み方が少しわかってきたような気がします。登場人物と自分との距離がぐっと近くなったからかも。

それはまた、鈴木道彦さんの翻訳がすばらしいからで、「読みやすく、わかりやすく訳そう」という「心」が強く感じられます。

スワン、オデット、ジルベルト、ゲルマント公爵夫妻、フランスワーズ、アルベルチーヌ、ヴィルパリジ夫人、シャルリュスといった主要人物に対する語り手の辛辣さと底意地の悪い見方が、以前はなんかいけすかなかったのですが、今度読み返すとその辛辣さの陰にある「人に対する哀しみ」みたいなものが感じられて、妙に共感します。そう、以前は語り手が嫌いでした。いやなヤツだと思っていました。でも、今回は「う、そこ、わかる。鋭すぎる」と思うことが多い。

食べるために働くという意味の「労働」からまぬかれたとき、人は生きていく目的をどこに見出すのか。ただ集まるために集まるパーティ、空気の読み合いに切磋琢磨するサロン、知っているということだけが重要な教養のための教養。あらゆることが自己目的化してしまったことで時間をつぶしていく話を読んでいると、人間ってほんとにおもしろいと思います。

まだこのあと第四編の「ソドムとゴモラ」があるのですが、「ゲルマントの方」がもしかしたらこの長い長い小説の圧巻なのではないか、という感想をもっています。有名なのは「スワン家の方」なのでしょうが、「スノッブ」を描ききったという意味ではこの巻なのかなあ。

コメント(2)

T :

こんばんは。「ゲルマントの方」は2巻目で難航しましたが、シャルリュス(お気に入りです)の出るシーンを楽しみにしながら読んでました。このシリーズは読みやすいうえに、注釈や索引が充実していて好感が持てます。カラフルなカバーイラストも素敵で、文庫版全13巻は宝物になりそうです。

motoko :

Tさん、今年もよろしくお願いいたします。「失われた~」を読み始めたきっかけは、実はTさんのサイトを読んでいたことも大きかったのです。
そうだ、シャルリュスがお気に入りなのですね。彼の正直さ(下司なところを隠さない)は異様なんだけれど好感が持てるほど、この小説の登場人物はみんな表の顔と裏の顔の落差が激しい。またそれをいちいち暴く語り手もどうよ、とつっこみつつ読むのが正しい読み方なのでしょうか?
そう、文庫版は読みやすいです。ベッドで読めます。注釈が一つの作品になっていますよね。

コメントする

新刊&セミナーのお知らせ

新刊 「クリエイターになりたい」

女の子のための仕事ガイドシリーズ 第8巻
文章、絵、音楽、コンピューターの4分野にわたって、それぞれにかかわる仕事をインタビューと「どうすればなれるか?」の2本だてで紹介しています。一流の仕事をしている(もしくは志している)女性たちの言葉は、きらきら輝いています。写真が増えて、ますます読みやすくなりました。中高生向けですが就活の大学生にもぜひ読んでもらいたい。

新刊 「天才シェフ、危機一髪」

キンバリー・ウィザースプーン/アンドリュー・フリードマン編
実川元子・松野泰子訳
日経BP社
「世界一流レストランの舞台裏で起きた40の本当のお話」というサブタイトルが示すとおり、今もっとも輝いているレストランのカリスマシェフたちが経験した、厨房でのトンでもないエピソードを集めたコラム集。客の立場ではうかがい知れない一流レストランの裏のドタバタぶりを知ると、レストランに行くのがもっと楽しくなるかも?!おいしいレシピも必見!

新刊 「サウンド・バイツ」

アレックス・カプラノス著
実川元子訳
"Take Me Out"で2004年に世界的にブレークしたスコットランドのロックバンド、フランツ・フェルディナンド(バンド名は、響きがよいから、という理由で、サラエボ事件で暗殺されたオーストリア皇太子の名前をつけたとかいう)のヴォーカル&ギターのアレックス・カプラノスが、ワールドツアーで食べたものをつづったエッセイ。

新刊 「巨乳はうらやましいか? Hカップ記者が見た現代おっぱい事情」

スーザン・セリグソン著
実川元子訳
早川書房
1470円(税込)

新刊 「受けてみたフィンランドの教育」

実川真由・実川元子著
文藝春秋
1600円(税込)
motoko
 人生でたいせつなものは本とサッカーと料理とファッションに教えてもらった、などと言ってみたいモノカキの日常

PROFILE

 職業はモノカキ/翻訳業。書いていきたいテーマは「女」「子ども」「衣食住」。得意技はなんでも一晩寝ると忘れること。
since2000.5.19.
カウンタ