読む快楽

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「沈黙のファイル  「瀬島龍三」とは何だったのか?」

共同通信社社会部編

新潮文庫

 

旧陸軍参謀本部作戦課のエリート参謀。30歳で事実上、対米英戦の作戦主任となり、「陸軍大学校開校以来の頭脳」といわれた俊才。

戦後、11年間のシベリア抑留を経て帰国。伊藤忠商事に入社。10年で専務、20年で会長になる。

中曽根康弘、竹下登らの指南役といわれ、政財界の影のキーマンとささやかれた男。

瀬島龍三はどうやって生き延びてきたのか? 表舞台に出ていながら、つねに背後に暗い闇をのぞかせていた人である。彼にまつわるエピソードには、どこかうさんくささとあやしさがともなっていたような気がする。本書はその男の多くの謎に迫ったルポルタージュであり、彼が亡きあとに出されたたぶん「瀬島龍三評伝」の決定版だろう。

前半は広範囲の取材によるルポルタージュで、後半に瀬島氏と深くかかわった人たちのインタビューが掲載されている。

冒頭から話はなまぐさく始まる。戦後のアジア(とくにインドネシア)への賠償に瀬島氏がどのように暗躍したかを、伊藤忠商事で瀬島氏とともに働いた小林氏の証言によって語られる。戦後「賠償」とは名ばかりで、実はヒモつき借款のからくりがあったことが暴かれる。デビ夫人がはたした役割や、日韓関係改善に向けて瀬島氏が裏で果たした仕事などが紹介され、実になまぐさい。

第二章では、瀬島氏が第二次世界大戦で参謀役として何をやってきたかが検証されている。なぜ無謀な戦争に日本が駆り立てられていったのか? 誰が被害をここまで大きくしたのか? 戦場を自分の目で見ることのないまま、参謀たちが「作戦」を立て、戦場はただ盲目的に従っていたことが、戦争をより悲惨なものにしていく様子が元兵士たちの証言によって語られる。

第三章ではシベリア抑留から帰国まで。ソ連の旧日本兵のシベリア抑留が、対米、対日政策をにらんだもので、現在の日ロ関係につながっていることがよくわかる。

そして第四章。かつての参謀たちがよみがえり、日本の政財界をいかに牛耳っているかの検証が行われて圧巻。ロッキード事件、政界と官界の汚職事件など暴かれたのはほんの一部。日本の政治・経済の底辺にあるのは、敗戦という汚点の責任をとらないばかりか、目をそむけてなかったことにしようとする日本の「体質」だという。

KCIAにいた崔英沢(チェヨンテク)氏、瀬島氏とともに大本営にいた井本熊男氏、シベリア抑留の指揮をとっていたイワン・コワレンコ氏のインタビューも、これまた「よくもここまで」という内容で読み応えがあった。単に私が無知だったからだけなのだが。

瀬島龍三氏がどんなことをやってきたか、というのはさほど大きな問題ではない。「瀬島龍三的なもの」がいまだに日本に根強く息づいていて人々の行動を動かす力があり、つまり日本において「戦後は(まったく)終わっていない」ことが問題なのだ。誰があの戦争の責任をとるのか? つぐないは誰がするのか? すべてうやむや。

防衛庁の数々の「失態」、自衛隊の海外派遣の問題、靖国参拝......根っこにあるものが少しだけ見えた気がする。

新幹線のなかでほぼ一気読みしたあと、次女に「ぜひ読みなさい。これを読まなきゃいまはわからない」と押しつけた。東アジアにはまっている彼女には、どうしても読んでもらいたい。

 

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 人生でたいせつなものは本とサッカーと料理とファッションに教えてもらった、などと言ってみたいモノカキの日常

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