ランチョンマット

最後の晩餐は、ミシュラン三ツ星の豪華なディナーよりも、自分でつくった一汁三菜にしたい。おいしいものをつくりたい。おいしいものを食べさせたい。

昨日は中学・高校時代の友人が来訪したので、今年はじめてのちらし寿司をつくってもてなした。

ちらし寿司、というと、プルーストのマドレーヌのごとく、私の脳はいきなり幼いときにタイムスリップする。

祖母は岡山の出身で、生涯のほとんどを兵庫県で暮らしていたにもかかわらず、「おきゃーま」こそが自分がいるべきところだと信じていた人だった。

だから、食べるものもおきゃーまで幼いころ口にしたものばかりで、そのなかでも「祭り寿司」は彼女にとって最高のごちそうだった。ほとんど料理をしない人だったが、春先からきまって祭り寿司だけはていねいにつくっていて、それがまた美味だったのだ。具を一つひとつつくる祖母のかたわらで、あまずっぱいにおいにつつまれながら、華やかなちらし寿司ができあがっていく光景は、いまも私の五感にしみついている。祭り寿司は、かんぴょうや高野豆腐やにんじんやしいたけや酢バスやふきや細く切ったさやいんげんや錦糸玉子といった通常のちらし寿司の具に加えて、甘酢につけたさわら、さっとゆがいた海老、ままかり、貝類、あなごの煮たのなど海鮮の具がたっぷりのっている、いかにも瀬戸内海沿岸地方らしいはなやかなお寿司だ。いま書いていても、大きな寿司桶にたっぷり盛られた祭り寿司が目に浮かぶし、得意げな祖母の顔や、「もとちゃんの分は海老が抜いてあるからな(私は海老アレルギー)」と別に取り分けてくれたその声までが思い出される。

で、私も春先になるとなんとかその味を再現したい、とちらし寿司に挑戦する。だが、何年つくり続けても、祖母の味にはならない。たぶん、酢も米も具もすべてが昔の岡山のものじゃないからだと思う。ま、腕もちがうんですがね。

きのう来てくれた友人たちの一人は岡山の出身で、やはり祭り寿司は何年かかっても祖母の味が出ない、と私と同じことを言っていた。お母さんがつくってくださるそうだが、それも「ちがう」と思うのだそうだ(心の中でだけ、と言っていた。私と同じだ。私の母のつくる祭り寿司も祖母の味ではない)もう一人は奈良の出身で、かの地のちらしには海鮮などはのらないのだそうだ。

中高時代の友人とはすでに40年以上のつきあいになり、お互い故郷の関西を離れて35年以上たつ。

それでも、会ってしゃべると関西弁がとびかい、故郷の話で盛り上がる。

そしてなんだかとってもほっとする。

年をとると、ふるさとがぐっと近くなるのかもしれない。

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motoko
 人生でたいせつなものは本とサッカーと料理とファッションに教えてもらった、などと言ってみたいモノカキの日常

PROFILE

 職業はモノカキ/翻訳業。書いていきたいテーマは「女」「子ども」「衣食住」。得意技はなんでも一晩寝ると忘れること。

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