読む快楽

活字中毒患者です。朝15分読まないと起き上がれない。最低1時間読まないと眠れない。夢中になって読んだ本を教えずにいられない。おもしろい本、 常時募集中!

いま"The Rivals Game"という本を翻訳しています。

イギリス(イングランドだけでなく、スコットランド、ウェールズ、アイルランド北部もふくめたイギリス)のよくも悪くも有名なダービーについて書かれたノンフィクション。著者はBBCのジャーナリスト、ダグラス・ビーティー氏です。

マンチェスター・ユナイテッドVSマンチェスター・シティ、リヴァプールVSエヴァートン、セルティックVSレンジャースなど、その街だけでなく世界的にも有名な熱いダービーが生まれた背景について。その街(ときには街同士ってこともある)に二つの強烈なライバル意識をもつチームが誕生した経緯。サポ、クラブ、チームの選手、歴代監督、サッカーになんの興味もないその街の住民たちにいたるまで、徹底した取材で「ダービーとは何か?」を描きだす、という本です。この人がすごいのは、徹底して自分で見て、聞いて、感じて、そして調べたことの確認をとってから書いていること。ダービーマッチというと、ついクラブの背景となっている宗教や社会階層がちがうことによってライバルになった(サポが労働者階級VS中産階級、とか、カトリックVSプロテスタント、とか)と思い込みがちですが、歴史的に見ても、現在も、本当はそうではないことが多い、というのがわかっておもしろいです。

同時に、この本はイギリスという「国」が、歴史的に見ても特色あるローカルが寄り集まってできたものであり、それぞれの街やら地域やらの住民たちは、地域コミュニティ>>>>>「国」という意識だ、というのがよくわかって非常に興味深い。彼らにとっては、たとえプレミアに昇格できていなくても「おらが町のチーム」のほうが、たとえばイングランド代表よりもはるかに高い関心があり......というか、イングランドやスコットランドやウェールズ代表に対する関心は低く、むしろ地元のダービーのほうが「絶対に負けられない戦い」である、というのが肌で感じられておもしろい。ロンドンでさえも、自分たちは「ロンドンの人間だ」(ロンドンくらいの大都市になると生まれ育った地区も重要)という意識は高くても、「イギリス人だ」とはあまり思っていない。イングランド代表の試合を観戦・応援するのは、俺のチームの選手が出ているからだ、と主張します。

で、本書はダービーがある街や地方のサッカーのみにふれているわけではありません。イギリスもご多分にもれず、グローバル経済によって地方と中央の格差が広がり、地方は過疎と高齢化に悩み、財政破綻寸前の街も(いっぱい)あるわけです。うっぷんがたまる人々のガス抜きであるはずのサッカーが、かえって過激に暴動に発展してますます荒廃を招く、という悪循環にもある。そこで、安全で清潔なスタジアムをつくり、警備を厳しくして「お年寄りや女性も楽しめる試合」にし、観光産業と街のPRの目玉をサッカークラブにしようという、絵に描いたような「サッカーで地方活性化」をはかる地方都市は少なくないそうです。

ところが、イギリスではサッカーがあまりにもメジャーなスポーツであるのと、スタジアム建設やクラブの整備のために外の資本を導入したら、それがロシアや中東のおカネだったりして、その地の歴史と伝統の上にあるはずの「おらが町のチーム」が、町の人たちから遠く離れた存在になってしまった、という笑えない「活性化」になってしまう例がいくつもある。本書の著者であるダグラス・ビーティー氏が書きたいのは、グローバル化に踊る中央が、格差是正のために中央主導で行なう「地方活性化」が、実は「イギリスのフットボールの危機」を招いている、という笑えない現実です。

一方、日本ではJリーグが「地元にねざしたチーム」によって、サッカーの振興をはかり、ひいては地方の活性化につなげる、とその精神をうたっています。

でも、日本だって地方によって歴史も文化もメンタリティもそれぞれ大きくちがう。それを中央から一律に同じマニュアルでチームづくりをして、同じ目標に向かわせる(つまり、リーグ加入ですね)というのは、なんかちがうんではないか。

網野善彦氏の「「日本」とは何か」では、「日本」という「国」ができたのは8世紀初めごろで、その後も東北や九州や北海道を武力で制定しながら、ようやく一つの「国」として形をとった。その後、明治時代から、主として軍事目的で「国」意識が全体に行きわたらせられたけれど、日本は一つではない、と網野氏は強調しています。東と西ではあきらかに文化もメンタリティもちがうし、北海道や沖縄では言葉や祖先さえもちがう人々が暮らしている。それが網野氏の主張です。

それだけ歴史的背景も文化も社会さえもちがう地方があるのだから、それぞれの特徴を生かした独自の活性化の道筋があるはずではないか。少なくとも、歴史認識を抜きにした活性化はありえないのではないか。そんなことを思います。

サッカーの話だけじゃなく、ヨソからどうやっていっぱいおカネを持ってくるか、というのだけが活性化の道じゃないような気がしてならないのですが。

で、この話を聞いたときのなんともいえない違和感も、そこにあるのかな。

 

コメント(1)

読裏クラブ :

面白そうな本ですね。是非読んでみたいです。「サッカーが世界を解明する」にセルティックとレンジャーズの話が出て来てましたが、この本は、それよりももっともっと「事実」というか「実際」に触れているようですね。我々日本人でははかりしれない、そういう文化というか生き方というか哲学めいたもの、人間の本性というか、性というか、本能というか、そういうものを感じさせてくれるのでしょうか。まだ先なのでしょうが、読後に感想を述べさせていただきますね。

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 人生でたいせつなものは本とサッカーと料理とファッションに教えてもらった、などと言ってみたいモノカキの日常

PROFILE

 職業はモノカキ/翻訳業。書いていきたいテーマは「女」「子ども」「衣食住」。得意技はなんでも一晩寝ると忘れること。
since2000.5.19.
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