読む快楽

活字中毒患者です。朝15分読まないと起き上がれない。最低1時間読まないと眠れない。夢中になって読んだ本を教えずにいられない。おもしろい本、 常時募集中!

「自然体――自分のサッカーを貫けば、道は開ける」

遠藤保仁著

小学館101新書

 

遠藤保仁(敬称略)はいまやサッカーファンならずと名前を知っている超有名サッカー選手である。私にとっては、彼(と山口智)の加入がガンバの大きな転機になった、という意味で偉大な選手である。

1999年のワールドユースで大活躍したものの、遠藤選手の日本代表選手としてのキャリアはけっして順調ではなかった。トルシエ元監督にはどうも嫌われていたらしく、(その理由についても、ヤット=遠藤選手はちゃんと本書のなかで自分なりに分析して書いている)シドニーオリンピックではサブにさえも入らず観客席で観戦した。2002年のワールドカップにも選にもれた。北京オリンピックは、病気で辞退せざるをえなかった。

私はヤットがジーコ元代表監督のもとではじめて代表戦に出たときのことをとてもよく覚えている。国立競技場で19番の背番号で出場したヤットに、やたらと興奮した。これで彼が代表に定着するに違いない、と期待した。その後アジア杯やコンフェデでもレギュラーで出場していたが、2006年のワールドカップではフィールドプレーヤーで唯一、ピッチに立てなかった。その理由についても、ヤットはまた自分なりに分析して書いている。

オシム元代表監督のもとでは主軸の選手となり、いまや代表は遠藤選手抜きには試合にならないほどだ。遅咲き、とか、運が回ってきた、とか、いまのヤットについていろいろ周囲は言うけれど、この本を読むと、彼は自分なりに「どうしたら試合に出られるだろうか?」と分析し、考え、努力して今のステータスを勝ち取ったのだとわかる。

ヤットは「がんばる」とか「(代表やスタメンに)くらいつく」とか、そういう言葉も態度も「自分らしくない」と思っている、と口に出しても言っていたし、態度にも出していた。よく言えばクール、悪く言えば淡泊だった。2006年まで、ガンバの試合でもいいときと悪いときの差があって(チームとしての出来不出来の問題が大きかったが)、悪いときには運動量がなくて、「がんばらない」ヤットに私はずいぶんいらついた。だが、2007年ごろから出来不出来の差がなくなってきた。とくに昨年、病気で倒れたあとからはプレイが変わった。球際が厳しくなったし、がんがんシュートを打つようになったし、得点したあとにものすごく喜ぶし、はしゃぐし、そういうヤットを見て変わったなあ、と思っていた。

何が彼を変えたのか? ヤットは本書のなかで病気をしたことや人との出会いやつらかった経験などいろいろ挙げているのだが、なんといってもイビツァ・オシム前代表監督だ、という。走ることもたいせつさ、考えること、そしてサッカーは「気持ち」が決めてとなること。それをオシム前監督から教わった、のだと言っている。その部分を読んで、ヤットはクレバーなだけでなく、感性が豊かで、ふところが深い人なのだなあ、と思った。なぜなら、オシムさんは「(こういうときに)走れ」とか「気持ちを出せ」とか、直接的な言葉でアドバイスする人ではないし、ほかの監督のように露骨ながむしゃらさを買うような人ではけっしてないから。オシムさんが伝えたかったことを、たぶんヤットは非常に的確につかんで、自分のなかで消化して変わった。そこが彼の人間性なのだと思う。

息子といってもいいほどの年齢の人が書いていることだけれど、私は教えられたことがあった。「成長したい」(もっとうまくなりたい、もっと強くなりたいなど)という気持ちを失ってしまったら、その時点で人は退歩していく、ということ。年齢や置かれた環境や自分の能力の見極めなど、「成長する」ことをあきらめるいいわけは山ほどある。でも「今の自分よりもっと上の人間になりたい」という気持ちをけっして失ってはいけない、ということ。あたりまえなのだけれど、10年間わりに間近で見続けてきた選手に言われると、ああ、ほんとにそのとおりだ、と勇気をもらった。

素朴な言葉で訥々と語られているのだけれど、遠藤保仁という人を少しでも知っている人にとっては、きっと興味深いはずだ。ガンバサポなら、即本屋に走るべき。

コメント(3)

zaburou :

お帰りなさい。「自然体」社内(グランパスサポ一色)で回覧しています。

mimi-ga :

初参戦します。「自然体」サッカー音痴の友人にも、「読んだら、食事おごるから」と言って、無理矢理読ませてます。目標は、サッカー好き関係なく、10人に回覧することです。今のところ、3名クリア。

motoko :

zaburouさん、コメント遅くなってすみません。
そうですか。それで、グランパスサポの評価はいかがですか?>自然体。

mimi-gaさん、いらっしゃいませ! で、無理やり読まされた(笑)お友達の感想はいかに?10人に回覧って、すごいなあ。

私は無理やり書評で取り上げることにしました。担当者を半分だましたような気がします(「ビジネスマンにも役立つアドバイスがいっぱいなんですよぉ」と言ってしまった……アドバイス探さないと)

コメントする

新刊&セミナーのお知らせ

新刊 「サッカーと独裁者」

アフリカ13か国の
「紛争地帯」を行く
スティーヴ・ブルー
ムフィールド著
実川元子訳
白水社
英国人の著者は
2006年より特派員と
してケニアに在住。ア
フリカ25カ国を取材し
た。多くの宗教、部族
が共存する複雑なア
フリカ事情を理解する
手段として、著者はサ
ッカーを通して取材し、
有力者や市民たちから
多様な本音を聞き出す
ことに成功した。グロー
バル化と民主化運動に
よって生まれ変わろうと
する新生アフリカの深部
に分け入ったルポ。

新刊 「MESH」

「メッシュ
すべてのビジネスは
<シェア>になる」
リサ・ガンスキー著
実川元子訳
モノがあふれて片づけら
れず、使いたいときにす
ぐに出てこない。
最近モノよりコトのほう
が重要になった。
ソーシャル・ネットワー
クもふくめコミュニティ
のつきあいをたいせつ
にしたいと思う。
そういう人にはぜひ読
んでいただきたいのが
この本。
「モノ」より「つながり」、
「使い捨て」より「借りて
まかなう」それが私たち
の生活だけでなく、地球
だって救う。
人間関係から環境問題ま
で、今問題になっているこ
との解決の糸口が見つけ
られ、未来に少しだけでも
希望が持てます。

新刊 「菊とポケモン」

アン・アリスン著
実川元子訳
世界中で人気を集める日本
のアニメやマンガなどのポッ
ップカルチャー。その人気は
どうやってつくられたのか?
米国民族学者が戦後から
現代にいたるまで、子ども
の想像世界を形づくるキャ
ラクターや玩具を歴史的に
追いかけ、グローバルな
人気を獲得した謎に迫る。
米国の大衆文化との比較
が興味深い。

新刊 「サッカーが勝ち取った自由」

チャック・コール著
マービン・クローズ著
実川元子訳
2010年サッカー・ワール
ドカップが開催される南アフ
リカ共和国は長く人種差別
政策、アパルトヘイトが敷か
れていた。圧政と闘い、投獄
された男たちは、生きるため
未来への希望をつなぐため
にサッカーリーグを結成する。
スポーツで自由を勝ち取った
男たちの知られざるノンフィク
ション。W杯のもう一つの真
実が見えてくる。

新刊 人はなぜSEXをするのか?

人はなぜSEXをするのか(小).jpg
「人はなぜSEXをするのか?」
シャロン・モアレム著
実川元子訳
アスペクト
なぜ浮気をしてしまうのか?
絶対不可欠のモテ要素とは?
「生涯の伴侶」を見つけるた
めに必要な感覚は?
私たちの何気ない選択に実
は自然の力が働いている。
気鋭の進化生理学者が遺
伝子、脳、身体、心理のあ
らゆる面から性の謎を解
き明かす。

新刊 英国のダービーマッチ

英国のダービーマッチ(mini).jpg

「英国のダービーマッチ」
ダグラス・ビーティ著
サイモン・クーパー序文
実川元子訳
白水社
英国8都市のライバル関係に
あるサッカークラブ同士で行
なわれるダービーの歴史を背
景に、クラブや市の関係者、
サポーター、ファンから一
般市民のダービーに寄せる
思いを描きだす。ナショナル
ではかれない「ローカル」
の発想を知るうえでも
好著。
motoko
 人生でたいせつなものは本とサッカーと料理とファッションに教えてもらった、などと言ってみたいモノカキの日常

PROFILE

 職業はモノカキ/翻訳業。書いていきたいテーマは「女」「子ども」「衣食住」。得意技はなんでも一晩寝ると忘れること。
since2000.5.19.
カウンタ