The Road
コーマック・マッカーシー
黒原敏行訳
早川書房
映画「ノーカントリー」の原作「血と暴力の国」で有名な作者だが、私は本書と同じ訳者による「すべての美しい馬」が好きだ。これはあるブログで絶賛されていたのですぐに読んだのだが、2日くらいストーリーに酔った。いい小説を読んだ、という満足感がひたひたと胸をひたした。いまでも「すべての美しい馬」は私のたいせつな本の一冊だ。
そして本書。父と息子の哀しい、でも美しい物語だ。
舞台は、核戦争か何かで人類がほろびかけている地球のどこか。
どこにいってもすべてが焼けただれ、生命のしるしも見えない荒野が広がるばかり。寒さを逃れて、南にいこうとカートをひいていく父と息子。周囲にいるのは、生命あるものは、子どもだろうが、親だろうが、殺して食べてしまうという人間ばかり。なぜ生きていかねばならないのかわからないような状況のなかで、父はひたすら息子を守り、息子を生かすことを自分が生きていくための力とする。実は息子もそうだ。もう死んでしまいたい。死んだほうがずっとらくだし、生きていくことの意味が見いだせないという状況でも、息子はひたすら父のために生きようとする。
父と息子の会話が主柱となるこの小説は、よけいな説明がない。父子が本当のところは心のなかでどんなことを思っているのか。2人の間に流れるものが何であるか。そういう言葉は一言もない。ただひたすら生きること。いまこの瞬間を生き延びること。その瞬間、2人がお互いを生かすこと。それだけが短い会話のなかで語られる。そういう言葉は強い。そして、哀しい。
涙が流れるようなシーンはない。でも、ずしんと響くものがある小説だ。
こういう小説はすばらしい。もしかすると、認める人は少ないし、何がすごいのかわかる人も少ないだろうけれど、でもすばらしい小説だ。
そして訳文のすばらしい。
けずりとって、芯のところだけがしっかり残っている言葉が並んでいる。美しい。




コメントする