読む快楽

活字中毒患者です。朝15分読まないと起き上がれない。最低1時間読まないと眠れない。夢中になって読んだ本を教えずにいられない。おもしろい本、 常時募集中!

くらくらする暑さから、働けど働けど......という日々から、自分や親や周囲の人たちの老いからの避難場所となってくれるのは、やはり読書です。ページを開けばどこかちがう世界に連れて行ってくれる本は、ほんとにありがたい友だちです。私のたいせつなどこでもドアだな。

というわけで、夏休みのうれしい興奮と、その下にあるかすかなせつない痛みを感じさせてくれた本たちをご紹介。

「しずかな日々」

椰月美智子著 講談社文庫

母子家庭の不器用な小学5年生が、転校先で友だちと出会い、すてきな先生と出会い、何より祖父と出会って同居するようになった最初の夏休みを描いたお話です。児童文学の賞をとった作家の作品で、本書も少年が主人公ではあるけれど、大人にこそ理解できる物語ではないでしょうか。

この本で最高にセクシーなのが少年のおじいさんです。物語のメインはたぶん空き地で草野球をするところなのだけれど、私はおじいさんが出てくるシーンばかりを繰り返し読んでじーんとしました。朝自分で考案した体操をし、おいしいごはんを炊いてもりもり食べ、井戸で西瓜をひやし、縁側のぞうきんがけをし、友人と将棋をさし、庭木の手入れをするおじいさん。自分で自分の生活を律し、でもけっして自分の生き方だけに固執することなく、孫の価値観や生活を柔軟に受け止めて愛情深く見守る。ほんとにセクシー。これがおばあさんだとあたりまえなのに、なぜおじいさんだとセクシーに描けるのか?

「人生は劇的ではない。ぼくはこれからも生きていく」――その言葉が胸にしみます。ついでに、この作者の「十二歳」は別の意味で名作です。

「ツバメ号とアマゾン号」

アーサー・ランサム著 神宮輝夫訳

岩波少年文庫

ずっと版切れだったのがようやく改訳で発刊されました。書評でも取り上げたので読み返し、はじめて読んだ高校生のころを思い出しました。全12巻がつぎつぎ改訳で出るそうで、ほんとに楽しみです。

あらためてこの年になって読むと、高校生のころには見えていなかったものが見えるものですね。高校生のころにはナンシィがかっこいいと思い、またスーザンに自分を重ね合わせて読んでいたのですが、今度はお母さんのふところの深さに感じ入りました。子どもをどうやって自立させるか、それを知っている人なんだわ。社会の「管理」とは何か? また個人の「自由」とは何か? それを子どもに教えられる人なんだな。

「夏休み」が単に「学校が休みだから遊ぶ時間」なのではなく、学校によってきめられている日常から離れた非日常によって、社会的訓練を積む時間なのだとわかります。組織論として読んでもおもしろい。

「丘の家のジェーン」

モンゴメリ著 村岡花子訳

新潮文庫

高校生のころの愛読書。父母が別居して、母親とともにトロントの裕福な祖母の家で暮らす少女ジェーンが、夏の間だけ父とともにランタン丘で暮らします。夏の小さな家の小さな主婦となって、思う存分家事を楽しみ、父と対等に話をすることによって大きく成長していく思春期のジェーンの姿を描いた作品です。トロントの立派な家には使用人が何人もいて、彼女は自分の部屋の掃除をすることさえ許されず、そのためもあってつねに自分が「半人前」だという情けない思いを味わっています。ヴィクトリア朝の流れをひく女性観、子ども観を持つトロントの祖母と、きわめて20世紀的かつ大衆的な子ども観の父親との間を行き来していくうちに、子ども期を脱する少女がまぶしい。

私は高校生のころ、モンゴメリ作品にどっぷりつかっていました。アンのシリーズも好きだったけれど、15歳のときに出会ったこの本と、「可愛いエミリー」を一番読んだかもしれません。ジェーンに料理をし、家を居心地よくするという生活の楽しさを教えられ、エミリーによって書くことの喜びを学びました。いま読み返すと、カナダの当時の厳然とある階級差別、移民・入植者の生活の厳しさや、ヴィクトリア朝的、かつスコットランド的の考え方にへきえきとするところもあるのですが、それでも夏休みの貴重な期間に成長していく少女の姿に胸がきゅんとなります。

夏休みにはイベントがなくっちゃ~と考えるお父さんお母さんは多いかもしれませんが、子どもの心に残っていく夏休みの思い出は、実はドラマなどない平凡な日々のちいさなルーティーンだったりするのかもしれません。そんなことを教えてくれるのも、本たちなんですね。

最後に。

「堕落する高級ブランド」 (ダナ・トーマス著・講談社)が、なんと刊行後1年以上たって、また増刷になりました(5刷)。ほんとありがたい。ありがとうございます。

コメントする

新刊&セミナーのお知らせ

新刊 「サッカーと独裁者」

アフリカ13か国の
「紛争地帯」を行く
スティーヴ・ブルー
ムフィールド著
実川元子訳
白水社
英国人の著者は
2006年より特派員と
してケニアに在住。ア
フリカ25カ国を取材し
た。多くの宗教、部族
が共存する複雑なア
フリカ事情を理解する
手段として、著者はサ
ッカーを通して取材し、
有力者や市民たちから
多様な本音を聞き出す
ことに成功した。グロー
バル化と民主化運動に
よって生まれ変わろうと
する新生アフリカの深部
に分け入ったルポ。

新刊 「MESH」

「メッシュ
すべてのビジネスは
<シェア>になる」
リサ・ガンスキー著
実川元子訳
モノがあふれて片づけら
れず、使いたいときにす
ぐに出てこない。
最近モノよりコトのほう
が重要になった。
ソーシャル・ネットワー
クもふくめコミュニティ
のつきあいをたいせつ
にしたいと思う。
そういう人にはぜひ読
んでいただきたいのが
この本。
「モノ」より「つながり」、
「使い捨て」より「借りて
まかなう」それが私たち
の生活だけでなく、地球
だって救う。
人間関係から環境問題ま
で、今問題になっているこ
との解決の糸口が見つけ
られ、未来に少しだけでも
希望が持てます。

新刊 「菊とポケモン」

アン・アリスン著
実川元子訳
世界中で人気を集める日本
のアニメやマンガなどのポッ
ップカルチャー。その人気は
どうやってつくられたのか?
米国民族学者が戦後から
現代にいたるまで、子ども
の想像世界を形づくるキャ
ラクターや玩具を歴史的に
追いかけ、グローバルな
人気を獲得した謎に迫る。
米国の大衆文化との比較
が興味深い。

新刊 「サッカーが勝ち取った自由」

チャック・コール著
マービン・クローズ著
実川元子訳
2010年サッカー・ワール
ドカップが開催される南アフ
リカ共和国は長く人種差別
政策、アパルトヘイトが敷か
れていた。圧政と闘い、投獄
された男たちは、生きるため
未来への希望をつなぐため
にサッカーリーグを結成する。
スポーツで自由を勝ち取った
男たちの知られざるノンフィク
ション。W杯のもう一つの真
実が見えてくる。

新刊 人はなぜSEXをするのか?

人はなぜSEXをするのか(小).jpg
「人はなぜSEXをするのか?」
シャロン・モアレム著
実川元子訳
アスペクト
なぜ浮気をしてしまうのか?
絶対不可欠のモテ要素とは?
「生涯の伴侶」を見つけるた
めに必要な感覚は?
私たちの何気ない選択に実
は自然の力が働いている。
気鋭の進化生理学者が遺
伝子、脳、身体、心理のあ
らゆる面から性の謎を解
き明かす。

新刊 英国のダービーマッチ

英国のダービーマッチ(mini).jpg

「英国のダービーマッチ」
ダグラス・ビーティ著
サイモン・クーパー序文
実川元子訳
白水社
英国8都市のライバル関係に
あるサッカークラブ同士で行
なわれるダービーの歴史を背
景に、クラブや市の関係者、
サポーター、ファンから一
般市民のダービーに寄せる
思いを描きだす。ナショナル
ではかれない「ローカル」
の発想を知るうえでも
好著。
motoko
 人生でたいせつなものは本とサッカーと料理とファッションに教えてもらった、などと言ってみたいモノカキの日常

PROFILE

 職業はモノカキ/翻訳業。書いていきたいテーマは「女」「子ども」「衣食住」。得意技はなんでも一晩寝ると忘れること。
since2000.5.19.
カウンタ