ふぞろいないちごたちが売られる季節になった。

ひと盛り480円。小さくて、食べると酸味がきつい小さないちご。

八百屋のおばさんが「ジツカワさん、ほら、いちご出ましたよ。お好きなんですよね、すっぱいのが」と、新キャベツを買いにきた私にいった。え? 私、すっぱいいちごが好きだなんていったかなあ。ま、いっか。と青いビニールのざるに入ったいちごを買った。キャベツはすっかり忘れてしまったよ。

さて、これでいちごジャムをつくろう、とほくほく。いえね、ジャムなんてめったに食べないんですよ。でも、自分でつくった金柑ジャムとかゆずジャムとか夏みかんジャムは食べる。誰も食べないから、一人で食べる。

えーっと、砂糖の分量はどうだったっけ? と開いたのが

「お料理はお好き 入江麻木の家庭料理」

鎌倉書房

という料理本。著者も出版社もいまはない。

この料理本は、結婚した1978年に購入した、私の最初の料理本である。

入江麻木さんは、小澤征爾・指揮者の奥さんのお母さんである。ロシアの方と結婚したので、ロシア料理がいっぱい出ている。もちろんそれだけじゃない西欧料理がたくさん出ているのだが、1978年にはめずらしいことこの上ない料理ばかりだった。

なぜそんな料理本を第一冊目として私は結婚生活、つまりは料理生活を始めたのだろう? たぶん、この本に出てくるような料理を毎日するような生活にあこがれていたのですね、きっと。実態は大きくかけ離れていたけれど。

この本で覚えて、いまでもよくつくる料理がミートパイ、サーモンパイ、ポトフ、ローストチキン、ロシア風レアチーズケーキ、スペアリブ、いわしのパン粉焼き、ロールキャベツ、じゃがいものチーズ焼き......こう書いていくと多いなあ。

ピクルス、テリーヌ、マリネなどの保存食もこの本に教えてもらった。

そしていちごのジャム。いちごとレモンと砂糖だけでつくるジャムは、簡単にできて、市販のものよりもあっさりしている。と私は思う。

いまやぼろぼろになったこの料理本には、何枚もの紙がはさんである。それは入江さんのレシピを応用して、分量を変えたりして私の好みの味にしたメモ。ロシア風はやっぱりいまいち合わないし、購入してから30年たつと、あぶらっこさや塩気などが気になってくるから。

それでも私の料理の原点はこの本にある、と思っている。

季節になったら、いちごジャムをつくってみようかと八百屋の前で足をとめるのも、あくをすくいながらふんわり甘い香りに包まれて幸せな気分になれるのも、この料理本のおかげだ。