本田靖春著
ちくま文庫
自分が生きてきた昭和はどんな時代だったのか、ということをあらためて知りたくなり、今年に入ってから、昭和のとくに戦後に起きた事件をたどって読んでいます。「下山事件」「疑獄事件」は記憶にあまり残っていなかったのですが(しかしこの2つの事件もあらためて読むと衝撃でした)、「吉展ちゃん誘拐事件」はたぶん私の記憶に鮮明に刻まれた最初の大事件だったと思います。私が9歳だった1963年、東京オリンピックを1年後に控えた東京の下町で起きたなんともいたましい事件でした。
本田靖春氏は、この優れたノンフィクションで犯人の小原保側から事件に迫っていきます。福島県の山間の貧しい農村で生まれた犯人の貧しさ――読んでいて胸が痛くなるほどの貧困――を淡々とした文体で描いていくのです。
誘拐事件とそれの解明に向けた刑事の取り調べ以上に、戦後の混乱からようやく落ち着きを取り戻してきた......それどころか高度成長期を経て経済も社会も安定していたはずの日本で、ついに営利目的の幼児誘拐・殺人という重罪を犯してほど追いつめられていく犯人の心象を暴いていくところが、このノンフィクションの真骨頂でしょう。貧しいからといって、犯罪をおかすのは大きなまちがいだが、貧しさが犯罪を生む土壌となることは否めない、という著者のスタンスが犯人像をより鮮明にしています。
著者はこの事件を通して、貧しさから抜け出すためには、教育が重要、教育が、人を反社会的行為(ひいては犯罪)に走るのを救う、ということを言外に訴えています。
それは楽観的すぎる、というかもしれませんが、この時代のような貧困層を生み、格差が大きい社会に逆戻りしないためには、やはり教育しかないのではないか、と読後しばし考えてしまいました。教育はすぐに投資効果があらわれるものではないし、高齢者対策とはちがって票にもつながりません。でも、このまま教育費を高騰させ、教育格差を広げるままにしていけば、戦後の混乱期と同じような不安な社会になるのは時間の問題に思えます。もう十分不安で不穏ではありますが。
話変わって。
歯の骨再生手術は無事終わりました。
痛いことは痛いけれど、少しはマシになるかなと期待があるので、痛みさえもポジティブに受け止められます。
しばらくごはんが食べられないのが一番つらかったりして。
コメント
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お加減はいかがですか?
痛みが取れる頃の日程、調整してメール致します。
どうぞ、お大事に。
痛みはもうありません!(断言)あとでメールします(まるで私信)