『BOY A』

ジョン・クロウリー監督

マーク・オロウ脚本

ジョナサン・トリゲル原作

キャスト:

アンドリュー・ガーフィールド(ジャック)

ピーター・ミュラン(テリー)

ケイティ・リオンズ(ミシェル)

 

注:一部ネタバレ。

シネカノン試写室にて9月8日観賞。

安倍元首相は「失敗してもやり直せる社会に、そしてリスタートを応援する政治をしたい」(?言葉は不確か)と言った。

その「失敗」にはどこまでふくまれるのだろうか?

幼いときに残酷な殺人事件を犯し、14年間少年院と刑務所に服役していた少年が、名前も経歴もまったく別のものにして人生をやり直そうとイギリスの小さな町にやってきたところから映画は始まる。

保護観察官のテリーは、「過去はもう忘れろ。なかったことにしろ。きみにあるのは、現在と未来だけだ」と、ジャックとしてリスタートする男を励ます。

運送会社に勤めた男(ジャックとしておく)は26歳になっているが、思春期と青年期の前半を隔離された場所で過ごしてきたために、社会的経験が少ない。精神的に成長していない。もっと言えば幼い。

幼いときから、アル中の父親と病気の母親からまったくかまってもらえず、学校でも友だちも一人もいなかった彼にとって、ジャックとして飛び込んだ「社会」は、はじめて人からあたたかい言葉をかけてもらえる天国のような場所だった。友だちができ、恋人までできて、リスタートは驚くほどうまくいっているように見えた。

だが、過去をないものになんかできない。ジャックは過去から自由にされない。新しい人生が幸せなものであるほど、過去は彼を苦しめる。そして......

そのあとは映画を見てください。ぜひぜひ見てほしい。別に犯罪歴ほどすごい過去がある人だけではなく、消してしまいたい過去がある人にとっては誰でも重い問題を突きつけられるはずだから。

ジャック役のアンドリュー・ガーフィールドと、その恋人役のケイティ・リオンズがとてもいい。ベッドシーンに涙を誘われるなんて、はじめてだったかも。

小道具の使い方もうまい。

恋人からプレゼントされた財布。そこに刻まれた文字。

少年のころ、学校をさぼって川で釣りをするときに、釣り竿をつくるために使われたカッターナイフ。

交通事故にあった少女を助けるために使われたカッターナイフ。

そしてもう1本のカッターナイフは......

映像もふくめて、とてもいい作品だった。

隣に座った女性は、ハンカチをほほに押し当てて泣いてらっしゃいました。