2009年幕開けの1月は、濃密な1か月でした。

年賀状のご縁で、はじめてお目にかかる方や、たいへん久しぶりにお会いできた方が大勢いたこと。(形骸化している、と言われていますが、年賀状は私にとって大事な人とのご縁を結ぶとても貴重な「綱」です)

いろいろな方にお目にかかりましたが、どの方とも非常に「濃い」お話をうかがうことができました。私が知らなかった世界を、あらたに開いてくれるようなお話ばかりで、たいへんありがたかったです。

そして、1月は内容の濃い本とも出会うことができました。

書評しているので、1部は紹介だけにとどめておきます。

「プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるか?」

メアリアン・ウルフ著 小松淳子訳

インターシフト

veritaで書評しているのでおおまかなところは割愛。

興味深かったのは、「英語を読み書きする脳」と「日本語を読み書きする脳」はちがうってところ。それじゃ英語を日本語にする翻訳者の脳はどう使われているのだろうか? 自分の脳をのぞいてみたいかも。

「世界の奇妙な博物館」

ミッシェル・ロヴリック著 安原和見訳

ちくま学芸文庫

VOGUEの次号で書評しているのでこまかい話は避けるが、世界中のおかしなものを集めた博物館を取材し、それに対する著者のコメントをまとめたもの。

何かを収集したい、収集したものを分類し、分析し、自分なりに系統だてて誰かに見せたい、というのはヒトの本質的な欲求なんでしょうかね。でもって、そういうコレクターグッズを(コワイもの見たさで、好奇心が刺激されて、と理由をつけるとしても)見てみたい、というのもヒトのサガなのか? 本に記されているURLをさっそく打ち込んで、ゴキブリだの死骸だのスパイグッズなどをチェックして、半日は楽しめました。

「迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか?」

シャロン・モアレムwithジョナサン・プリンス著 矢野真千子訳

NHK出版

ヘモクロマトーシスというめずらしい遺伝性の病気にかかり、晩年にアルツハイマーを患って亡くなった祖父。自分も調べたらヘモクロマトーシスにかかっていることを知った著者が、「なぜヒトは進化の妨げとなるような病気にかかるのだろう?」と疑問に思い、進化学、遺伝子学や細菌学を学んでヒトと病気と進化とのかかわりを論じた本。トンでも本になりかねないところを、突拍子もない発想をまじめに実験や調査で論理づけしていく著者の姿勢がちゃんとした学術書にしている。

読んだあと、食べ物や性的な嗜好や性格やクセや体質が、深いところで人類の進化に結びついていることがわかって興味深い。よく「自分がどんな人間か知りたい」というけれど、本当に知るためにはまずはこの本を読んで、「人間とはどんな生き物なのか」の見方をあらたにしてからだ、と思った。

「それから」

夏目漱石著

新潮文庫

「三四郎」につづいて、夏目漱石追跡月間第2弾。三四郎にもいらついたし、代助ももし私の亭主だったらどやしつけるところだが、それ以上に三千代さんが何かするたび、口を開くたび、何もしなくても神経を逆なでされた。でも......いるよなあ、こういうオンナ。今ならさしずめ「魔性のオンナ」とか呼ばれるのかもしれないけれど、魔性になりきれないところが腹立つ。

夏目漱石は新潮、岩波と出ている。「三四郎」は岩波で、「それから」は新潮で読んだのだが、あくまで好みだとしても、私には岩波のほうが味があってよかった。

そして今月のNO1は

「カムイ伝講義」

田中優子著

小学館

実は昨晩読了。脳が興奮しちゃって明け方まで眠れなかった。それくらい知的刺激を受けた。著者が何度も繰り返すように、現在の日本とカムイの時代は大きく重なっている。日本における格差・差別構造の原点を探るために、「反貧困」以上に必読の書だと思った。

江戸時代研究では第一人者の著者が、法政大学社会学部の学部生を対象に、「カムイ伝」を題材にして江戸時代の社会を論じた講義をまとめたものだ。江戸時代に農業や手工業が飛躍的に生産量をあげ、技術を発展させたのは、農民が単に田を耕すだけでなく、農機具を開発し、肥料を研究し、売買するルートをつくり、年貢の取り立てに対してはたびたび一揆をおこして抵抗するなど、学問、技術力、政治力まで兼ね備えた「百姓」(誇り高い呼称)であったからだ、という視点。その農民を基軸に、穢多、非人の実際。戦争がなくなって存在意義を失っていく武士が江戸時代にどう役割を転換していったか。恋愛とジェンダーから見る女性の地位。ゴミや無駄を一つも出さずに究極のエコロジー生活を編み出した江戸の知恵。などが語られる。

あまりにおもしろかったので、読んでいる途中で「カムイ伝」全巻をお取り寄せしてしまった。(ところが、第一部15巻は文庫版の古本しか手に入らず)全巻読んで、あらためて読み返すことでもっと深いところが理解できると期待。