知り合いの人が、朝、会社で電話をとったら、今年4月に入った新入社員からで、いきなり「会社を辞めます」と言われたそうだ。
とにかく電話だけじゃダメだ、必ず来社して手続きをしなさい、とさとしたらしぶしぶやってきた。
当然ながら「どうして辞めるのか?(辞めたいのか、とは訊かないそうだ、もう)」と訊くと
「思っていた仕事とちがうから」
その話を出張にいった先で、企業や病院のトップが集まっているところで話したら、全員がふかーくふかーくうなずいて、「ここ5年くらい、新入社員研修が終わってすぐに辞める人が何人か出るのは恒例です」とか「もう最近は引き留める言葉をいっさいかけませんね」とかおっしゃっていた。
そして全員が口をそろえて言った。
「おまえに合う仕事なんか100年探してもないわい。おまえが仕事に合わせるんだ!」
いや、ほんとに、そのとおりだ。
自分に合う仕事を探そう、なんて、仕事をしたこともない人間が言っちゃいかんね。
出張から帰ってきて、ふと手にとったのが『雅子さまと「新型うつ」』(香山リカ 朝日新書)という本。
これまでとちがったタイプの「うつ」が出てきている、という話で、それが雅子さまの症状に似ているのではないか、という内容だ。そこで思わずかくかくうなずく箇所があった。
引用してみる。
(総務部に異動になって「うつ」になって休職していた30代女性が、希望の部署に異動になって働き出したものの、2か月でまた発病した、という例をひいて)
「「英語が得意でコミュニケーション力もあり、海外との交渉もタフにこなす」というのは、もしかすると彼女だけの自己イメージであって、客観的な実力とはかなりズレがあったのではないだろうか。つまりそれは、「こうありたい自分」であって、決して実際の姿ではなかった、ということである。
仕事で自己実現したい、と望んでいる人は、しばしばこの問題で落とし穴にはまる。
つまり、自己実現というからには、それはそう呼ぶに足るほどのかっこいい仕事、目立つ仕事である必要がある。(中略)
しかし、(中略)個性的な仕事、オリジナリティあふれる仕事は、それだけハードルが高い。知識、忍耐力、持続力、柔軟な心に体力などなど、要求される能力は数限りない」
そうなんだなあ。
私も30代のころまで、「仕事で自己実現」なんて思い、あせっていたことがあった。自己実現している手ごたえがなかなかえられなかったから。
だが、あるとき気がついた。どんな(つまらないと思えるような)仕事もたいせつな仕事であるという心構えでいかないと、足元をすくわれる。誰かに評価されてもらいたい一心で仕事をしてしまっては、必ず挫折するな、ということだ。
私はよく「淡々と仕事をしよう」と自分に言い聞かしている。この仕事がすごく好き~~とか、情熱を捧げている~~とか思いこみ過ぎてしまうと、がっくりくることが多すぎる。毎日、ノルマを決めてそれを淡々とこなしていくこと。淡々とこなすことに、達成感をおぼえて励みにすること。仕事に使われず、仕事によりかからず、仕事に期待しすぎないこと。(私のいう仕事のなかには、家事も入っている)それができるようになってはじめて、「この仕事は自分に合っているかもしれない」と思えるのかな。
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