自分のメモがわりに、今年読んで印象に残った本を書きとめておきます。

今年「出版された」本ではなく、あくまで私が今年読んだ(もしくは再読した)本のなかからの選択です。

「角川春樹句会手帖」佐藤和歌子著 扶桑社

ブログにも書いたけれど、選ばれている俳句が楽しかった。角川氏の無頼ぶりはちょっとアレでしたが。福田和也さん茂木健一郎さんの俳句がいまいちおもしろくなかったのはナイショ。

「俳風三麗花」 三田 完著 文春文庫

俳句つながりで読んだ小説。戦争に突入する前、昭和初めの東京、日暮里で開かれている句会に参加する三人の女性のオムニバス。昭和7年は母が生まれた年で、その時代の空気が感じられました。

「本業失格」「最低で最高の本屋」いずれも松浦弥太郎 集英社文庫

松浦さんのことは前から気になっていたのだけれど、随筆を読んだのは実ははじめて。楽しかったし、共感するところがたくさんあった。仕事をする、生活をする、その基本がしっかりあるところが好き。

「日本の深層文化」 森 浩一著 ちくま新書

文明以前の日本の生活を解き明かす本。「野」というのが、どんな場所だったのか?(ただの野っぱらではない、とても重要な役割がある野原だった) 粟、鯨、鹿の宗教的、食糧的意義とは? といった日本古代の文化について知らなかったことがいっぱい書かれていた。書評で読んだのだけれど、以後、飲んだときに得意げにハンパな知識を披露しちゃいましたよ。

「私という病」「女という病」 中村うさぎ著 新潮文庫

中村さんの本はこのほかにもいっぱい読んだのだけれど、なかでもこの本は強烈でした。女という性を確かめるために、デリヘルをやる中村さん。それでわかったこと、わからなかったこと、気づいたこと、気づきたくなかったこと。安直なフェミニズムを吹っ飛ばしてしまうエネルギーがありました。このあとつかれたように中村うさぎさんの本ばっかり読みなおしたり、読みふけったり。しばらく「中村うさぎ」熱に浮かされましたね。

「チャイルド44」 トム・ロブ・スミス著 田口俊樹訳

スターリン、こえぇぇぇ、寒いところで飢えたくねぇぇぇぇ、と心のなかで叫びながら読んだ......のは、南国の海辺でハンモックに揺られながら......w。私が奥さんだったら、秘密警察のダンナは許さんぞ。

「船に乗れ」1,2,3 藤谷 治著 ジャイブ

おもしろい! と本通に教えていただいて、まずは池袋のリブロで1巻を購入。でもって、山手線を一周ちょっとして1巻読破し、たまらず渋谷のブックファーストで3巻まで購入。一気読みでしたわ~。青春小説っていうけれど、なんというか、ぐぐぐーっと奥がふかーい小説。主人公が高校生というだけであって、どんな年齢にもぐっとくるものがあるはず。私は音楽のことがなんにもわからないけれど、読みながら耳の奥にずんずんと響くものがありました。感動って言葉を使いたくないのだけれど、清潔な感動とはどういうものなのか、を教えてくれます。おすすめ。

「図書館 愛書家の楽園」 アルベルト・マングェル著 野中邦子訳 白水社

付箋を貼って、心に残った箇所を書きうつしたくなる本、というのがある。私にとってはまさにそれにあたる本。図書館について書かれているのだけれど、本が好きな人にとっては、じっくり寝かせたワインみたいな言葉が並んでいる。

いくつかあげるとーー

「(フローベルの小説をひいて)私たちにとってつねに周知のことでありながら、めったに信じようとしない事実だった。つまり、集積しただけの知識は知識にならないということである」

「蔵書は、私たちの生き方が正しかったかどうかを証言し、私たちが何者であるか、どのように生きたかの証となる」

「(古今東西、いつの時代、どの文明にあっても)読書を不可欠とする人びとは非常に少ない。どんな社会でも、本を読む人と読まない人の比率はたいして変わらないが、書物や読書方法に対する考え方は、それぞれに異なる」

「ミトコンドリアが進化を決めた」 ニック・レーン 斉藤隆央訳 みすず書房

翻訳している本の参考書を探していて、見つけた本。英語のタイトルが"Power, Sex, Suicide"こちらのほうがずっと魅力的な題名だと思うし、実際内容もそれにふさわしい迫力です。遺伝子は父親・母親の両方から受け継ぐのだけれど、ミトコンドリアは母方のほうからだけ受け継がれていくんだってことに初めて気づいた私(高校で何を学んできたのでしょうね)。ミトコンドリアと進化の関係を解き明かす研究のところもおもしろいのだけれど、「なぜ二つの性があるのか?」と「ミトコンドリア老化説」のところが私にはとくにおもしろかったです。

「夜想曲集」 カズオ・イシグロ著 土屋政雄訳 早川書房

音楽を軸にした短編集。毒々しさとはかなさとせつなさを並列して描く、いかにもなカズオ・イスグロ調。ちょっとエグみが残りますが、ストーリーテラーとしての話の運びには脱帽。

「シカゴ育ち」 スチュアート・ダイベック著 柴田元幸訳 白水社Uブックス

シカゴのけっして裕福とはいえない一地区で展開する物語。中編くらいの長さから、わずか1ページだけ、詩みたいな一節があったりして、主人公はシカゴという街。だから登場人物はいても、聞こえてくるのは街の鼓動やら騒音です。何回読んでもいいなあ。これをマネ(?)して、自分が住んでいる街を主人公にした小説を書きたい、という人はいるだろうなあ。

「お茶にごす」1~10巻 西森博之著 小学館

え~、マンガです。貸していただいて読み始めてはまりました。貸してもらっていたのに、どうしてもベッドサイドにおいておきたくて全巻購入。この秋、やっと完結。いやなことがあって寝付けないなあ、というときにも、まーくん(主人公)の顔を見たら「たいしたことないやー」という気になって眠れます。何回読み返しても、ブルーが出てくるところでは笑える私。