「サムライブルーの料理人―サッカー日本代表専属シェフの戦い」

西芳照著

白水社 1680円

 

 

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 福島県楢葉町にあるスポーツ施設、Jヴィレッジは日本代表だけでなく世界各国のサッカー代表チームがよく合宿を行ってきたことで有名です。そこにあるレストランで長年総料理長をつとめ、2004年よりサッカー日本代表の海外遠征に帯同してシェフとして腕をふるってこられた西芳照さんが、日本代表とともに世界各地で戦ってきた7年間を振り返った本です。私は構成、取材、まとめなどで本の制作のお手伝いをしました。

 ワールドカップドイツ大会、南アフリカ大会の地区予選と本大会、中国、東南アジア、カタールで行われたアジアカップ、東アジア選手権など、7年にわたり50回以上の遠征試合に帯同してこられた西さんは、ジーコ、オシム、岡田、ザッケローニ(敬称略)という代表監督とスタッフ、そして何より選手たちから篤い信頼を寄せられている料理人です。料理人としての腕が一流であることは言うまでもありませんが、それ以上につねに笑顔を絶やさない人柄によって誰もに慕われ(海外宿泊先の厨房のシェフたちにまで尊敬され愛される)、突発事態にもあわてずさわがず臨機応変に対応する仕事ぶりがすばらしい。食材や厨房設備などで不便を感じることも多い海外で、選手たちがコンディションを整えてピッチに立てるのは、「西さんのつくったものならまちがいない」と信じて食欲が落ちないおかげ。そんな様子が本書をお読みいただけるとよくわかると思います。ふだん代表の試合からだけでは見えないかもしれないけれど、日本のサッカーを支えている一端は、西さんをはじめとする裏方のスタッフたちなのだ、ということも感じていただける内容です。

 サッカーが好きな方。Jリーグや日本代表を応援していらっしゃる方。サッカーをプレイするお子さんをお持ちの方。サッカーには興味がないけれど、元気になれる料理レシピを知りたい方。すべての方にぜひ読んでいただきたい本です。

 

 最後に。校了する寸前の3月11日。西さんが働く福島県楢葉町は東日本大震災で大きな被害をこうむりました。幸い、西さんも南相馬市にいらっしゃったご家族も無事だったのですが、原発事故もあって西さんの故郷では予断を許さない日々が続いています。そんな時期にこの本を出していいものか、と迷われたのではないかと思いますが、こういう時期だからこそ、福島が多くの方々にとってどんな故郷であるかを知っていただく意味で出すべきだ、と私は思っています。

 本文の第一行目は「山の幸海の幸に恵まれた福島で育つ」です。西さんがこよなく愛される福島が、自然が豊かな故郷に戻れるよう、私も本当に微力ではありますが、お手伝いできることをしていきたい、と心しています。