今日は涼しかった。っていうか肌寒かった。

ジムをやめてしまったので、6月からまたプール通いを始めています。もちろん近所の区民プール。2時間400円。25分で1000メートル泳いで(かなーりスローペース)、あとはだらだらと流したりウォーキングして55分で終了。シャワー浴びて、髪を乾かして、ちょうど1.5時間。最近は外に出るとまた汗が噴き出ていましたが、今日は6月並みに肌寒かった。でもね、いくらなんでも厚手の長袖トレーナーはないと思ったよ>プールから外に出たときに出くわした兄ちゃん(もちろん知らない人)

そんなことはどうでもよくて、自分のメモ代わりに最近読んだ本のメモを残しておきます。この1ヵ月は「いい本、アタリ月」だったからね。

『豆腐屋の四季』(講談社文芸文庫) 『風成の女たち』(社会思想社 絶版) 『平和・反原発の方向』(海竜社) 

3冊とも松下竜一著

勧められて『豆腐屋の四季』と『風成の女たち』を読み、この2冊にかなーり感動したので海竜社より刊行されている松下竜一全集のなかから選んで3冊目を読みました。そしたらそれに一番ぐっときた。

松下竜一さんは大分の中津に生れ、生涯そこで暮らしました。豆腐屋を営み、歌を詠み、その後ルポルタージュを書くようになり、市民運動家としても亡くなられるまで活動をやめませんでした。生まれた直後に大きな病気を患ったせいで身体に障害を負われたのですが、最後の最後まで闘うことをあきらめなかった。6人兄弟の長男で、実家がかなり困窮されており、生活は苦しかったようです。豆腐をつくって売りながら歌を詠んで投稿する青春の日々。それをつづったのが『豆腐屋の四季』です。あまりの貧しさに死ぬことまで考えてしまった20代のはじめのころの話に胸が痛み、その後の奥さんとの出会いでほんわかし、なんてたって松下さんを支えた奥さんがすごすぎる、と感嘆し、やはり生活者の視点がないとモノは書けないよな、と自分を省みて恥ずかしくなる......。青春記っていったって、えらく重い。

その後、地元でセメント工場が建設されることに反対した漁村の女性たちの運動を描いたのがルポルタージュ『風成の女たち』。企業の経済論理、零細な漁村の破壊されていく生活、子どもたちを守るために立ち上がる女性たち、それを抑えつけようとする男たち、そんな闘いが淡々とつづられていきます。松下さんって、ちょっと......マザコン? おっかさんたちに対する愛情が深い深い。

市民運動家となった松下さんが玄海原発反対で九州電力と真向から立ち向かった記録が、3冊目におさめられています。これを読んだあとで、今回の九電のメール操作事件が起こり、九電の体質(っていうかやり方)が30年以上前からまーったく変わっていないことに唖然。笑っちゃいましたよ。言い方は下品だけれど、電力会社が札束でほっぺたをひっぱたたくようにして地域共同体を分裂させ、地元の自然も産業も崩壊させ、そのために働き手はいなくなり、最後に地域に残ったのは危険な原発と、何か起こっても逃げるすべもない年寄りと子供だけ、という現実。福島の現状を見通していたかのようなルポでした。80年代に書かれているのですが、あまりにも今起こっていることとシンクロしているので、何回も日付を確かめながら読みました。ずしんと重いルポ。でも、今の原発の問題について語られたものとして、一番、胸に落ちたかな。たぶん、それは松下さんがあくまでも「そこで生きる人の視点」で原発を見ていたからだと思います。

『実りの庭』

光野 桃著 文藝春秋

実は光野さんと以前にお会いしたことがあるのも手伝って著作はかなり読んでいます。好きな作家さんですが、この本はこれまでの本以上に胸に迫るものがあった。とくにお父様のことを書かれた章がよかった。読みながら少し涙ぐみました。父親と娘の関係ってむずかしいですよね。私は父親とほとんど接触なく育ってしまったので、光野さんが感じられたような感情は抱いていないのですが、父娘の葛藤は想像がつく。

『聖書を語る』

佐藤優×中村うさぎ 文藝春秋

中村うさぎさん、すごい! いやもう、佐藤さんを食ってます。中村さんってこんなに博識で頭がいい人だったんだ。エッセイは大好きでたぶん9割は読破していて「腹抱えて笑う」「のけぞる」っていうのが読んでいるときの私の姿勢に一番あてはまる表現です。つまり、大好き。

だけど、この対談を読んで、好きなんていうのは恐れ多いと反省。尊敬の念がふつふつ。佐藤優氏が博学の知識人だってことはわかっている。中村うさぎさんはその佐藤氏に学んでいろいろ教えてもらっている、ということになっている(ご本人もそう言っている)が、佐藤氏の知識を消化して「生きる知恵」というか人生の栄養に変えているのが中村さんなのだ。

対談はキリスト教信者である2人が、聖書の思想から「村上春樹とサリンジャー」を、そして「地震と原発」を読む。村上春樹の解釈以上に、私は中村うさぎさんが読み解くエヴァンゲリオンが非常におもしろかった。何がおもしろいって、エヴァンゲリオンに流れる思想が、「現代」をとらえることに一つの手掛かりを与えてくれる、という点だ。

中村さんが書くあとがきの一節を引用しておきたい。

「人間は『個』であると同時に『全体』である。『個』を失っては生きていけないし、『個』であり続けるだけでも生きてはいけない。

だが、他者と繋がって集合体になろうとすると、必ず『個』と『個』のぶつかり合いが生じて、そこに苦しみや絶望が生まれるしくみになっている。それでもやはり、心のどこかで『繋がり』を希求する想いは断ち難く、傷だらけになりながらも他者を求め、拒絶されては煩悶する。

 この『他者と繋がりたいと願いながらも、互いの拒絶してしまうパラドックス』こそが人間の根源的な苦しみではないかと私は考え、旧約聖書にしるされた『原罪』、すなわちアダムとイヴが食べた『知恵の木の実』とは『他者の発見=自意識の獲得』ではないか、という仮説に到るのである」

 自意識! そうか、自意識だったのだ、と思い当ることしばし。

『夕暮の緑の光』野呂邦暢随筆選 岡崎武志編

みすず書房

諫早に暮らし、42歳で急逝した作家の没後30年を経て出版された随筆選集。一度に読むのがもったいなくて、少しずつ少しずつ味わって、一篇を二回も三回も繰り返しながら味わいました。

文章がすばらしい。透き通っている文章っていうのに久しぶりに出会った気がします。言葉が紙面からきらきらと輝いて立ち上ってくる。そんな感じ。

でも、書かれている内容はやさしく甘いことではありません。長崎に育った作家は、諫早に疎開していたときに原爆の投下を目撃します。親しい人をなくし、実家は事業に失敗し、自衛隊に入隊し、職業を転々として、やがて諫早に家を借りてそのまま生涯そこで暮らします。そんななかでもずっと本を愛し続け、書くことに喜びを見出していた人でした。書かずにはいられない人だった。作家になるべくしてなった人なんだなあ、とここでまた自分を省みてちくりと胸が痛んだけれど、それはさておき。

いい本でした。野呂さんの小説も読んでみよう。

疲れてきたので、あとはメモ。

『女子の古本屋』岡崎武志著(ちくま文庫)、『犯罪』フェルディナント・フォン・シーラッハ著/酒寄進一訳(東京創元社)はすごーくおもしろかったけれど、書評で取り上げたのでここでは書名の紹介のみ。

『ローマの歴史』Iモンタネッリは再読。再読してもまた新しい発見がある。ほんとにおもしろい本。

『困っているひと』大野更紗著(ポプラ社)これはすごい本! 難病にかかった大学院生が病気になってからのことをつづっているのだけれど、まったく闘病記じゃないのだ。文章力もすごいが、自分を客観視し、他者を冷静に見つけるその目がすごい。社会から疎外されていく様子が恐ろしい。この本についてはあらためて書いてみたいです。

『イスラム飲酒紀行』高野秀行著(扶桑社)もう、高野さん、大好き! 次女が熱烈なファンなので早く貸してくれってうるさい。でも、まだ貸せない。だって酒飲みで旅好きの次女が読んだら、イスラム国家でまねしかねないからね。

『古書の来歴』ジェラルディン・ブルックス著 森嶋マリ訳 ランダムハウスジャパン。たぶん、今年読んだミステリーNO1にあげそうなよかーん。

なんかまだ読んだ本があったような気がするけれど、さすがに疲れたのでこのへんにしておきます。