外出したら最低でも3つの用事をすませなくては気が済まないビンボー症のジツカワです(交通費と時間のもとをとりたい)。だもんで、昨日も山手線半周しながらつぎつぎ用事をすませ、最後に渋谷まで帰ってきたときにはへとへと。大荷物を抱えながらずるずる歩いていたら20代後半に見られる女性2人の会話が耳に飛び込んできました。

 女性A「夏の終わりってなんか疲れちゃってさー、朝起きるときに、会社行きたくねーって思うんだよね」

 女性B「わかるわかるー! そんでさ、○○(→会社の同僚らしい)にすべてにやる気が起きないって言ったら、自己啓発本を読めって貸してくれたよ」

 女性A「あ、私も勧められたよ。『7つの習慣』ってやつでしょ。読んでないけど。あとさ、夏の疲れにはマシュマロが効くらしいよ。○○は一日にマシュマロ50個食べながら、自己啓発本を読んでいるらしい」

 女性B「マシュマロー?! なんでー?」

 女性A「マシュマロには脳を活性化するグルコサミンが入っているんだって」

 マシュマロ? グルコサミン? 脳の活性化?......思わず振り返って女性たちの顔を見てしまいました。ごく普通のOLっぽい感じの女性たちでした。

 私が調べた限り、マシュマロにグルコサミンが含まれているということはどこにも書かれていなかったし、グルコサミンが脳を活性化させるという記述もなかったんだけれどなあ。

 それはともかく、そういう俗説と同じ線上で自己啓発本が語られるってことに軽くショック。

 本屋に行くと「自己啓発本」というコーナーがかなり大きく取ってあることに、私はなんというか......危ういものを感じています。ベストセラーには、正面きって自己啓発をうたっていなくても、中身は形を変えた自己啓発本でしょ、っていうのが何冊も並んでいるし。みんなそんなに自己啓発したい、もしくはされたいのでしょうか?

 自己啓発本にはいくつかの系統がある、と見ています。(注:あげた本のタイトルは変えてあります)

1)生活習慣系......「断捨離」本とか、「朝5時起きの習慣で、人生はスムーズにいく」とか、日々の暮らし方を変えることで人生がスムーズになりますよ、とお勧めする本。健康本のなかにも、この類の自己啓発本は多くて、ダイエット本もある意味自己啓発本と言えないでもない。単なる健康本やダイエット本と自己啓発本とのちがいは、「健康にいいですよ」とか「痩せますよ」と言うのではなく、「これをすると、人生がもっとうまくいく」と断定してしまうことです。効能を「うまくいく人生」にするところが自己啓発本でしょう。

2)教育系......「20代でしておきたいいくつかのこと」とか「子どもがぐんぐん伸びる魔法の言葉」、「部下に伝えたい○○のこと」、もしくは自己啓発における歴史的名著「人を動かす」byDカーネギーというような、育児、部下育て、そして「育自」のための自己啓発本です。私も読んだぞ、子どもがややこしい年齢のときには。励まされるものもあれば、かえって落ち込む内容の本もありました。今はもっと増えていて、口調はもっと断定的。育児も社員育成もむずかしい時代なんでしょう。

3)医学系......最近のはやりは脳科学者がとく自己啓発。「脳にいいいくつかの習慣」とか「あなたの脳が劇的に変わる」とかそういった類のもの。ここから発展して「ぼけないために脳を鍛える」とかそういった「ぼけ防止自己啓発本」という新しい分野もできつつあります。以前は医者が身体の健康を精神面の健康と結び付けてとく自己啓発本がベストセラーを出していたけれど、脳トレ(→あやしさのきわみだと私は思っている)以降は脳科学です。私もおもしろがって読んでいるんですけれどね。問題は、子どもが巻き込まれるときに発生するのではないでしょうか。親が勝手に自己啓発している分にはいい(いいのか?)んだけれど、子どもの脳を変えようとか本気になられるとこわい。

4)ビジネス系......ビジネス本の棚に並んでいる3割くらいは自己啓発本じゃないかっていうくらい、それっぽい本が並んでいます。3.11以降減るかと思ったらますます増えている。経済が混乱状態にあって、「こうすれば(この分野なら)儲かりまっせ」という提案ができなくなったために、精神面でカバーしようっていうんでしょうか。

 自己啓発本がどれも悪いと言っているんじゃないんです。私だって落ち込んだときに自己啓発本に励まされることはあるし、自分ではどうしようもないときに何かすがるものが欲しくて手に取ることもある。でも、あまりにもあやしげな(それこそマシュマロが身体にいいっていうくらいのあやしい)自己啓発本が多いし、それに依存するっていうのは危ないんじゃないか、と思ってしまうんです。

 最近の自己啓発本はどれも「科学の裏付け」をうたいます。だからかどうか、やたらと数字をあげる。数字がタイトルに入っていると売れるんでしょうね。しかも刺激的な数字です。「7日間で人生が変わる」とか、「1日3分の習慣」とか、「脳が9割変わる」とか。冷静に考えれば、そんなに簡単に自分も人生も変わらないとわかるはず。でも、冷静さを欠いているからこそそういう本を手に取りたくなる。なんか......つけこんでいるなあ、と思います。

 あと、やたらと「夢」が出てくる。「夢をかなえるなんたら(動物名)」という本が大ベストセラーになって、どうもそこに私の本から文章が引用されているらしく、アマゾンで私の名前を入れると最初にその本がヒットしてしまう、という。とほほ。「夢」の自己開発本は、現実からのかい離を促しているのだろうか、と私は少々疑っています。

 世界は今、大きく変わろうとしています。この先にどんな未来があるのか、まったく見えない。前は10年先のことなんかわからない、と思っていたけれど、来年のこと、いや、来月のことだって不透明です。そういう時代にはどうしても近視眼的になって、自分と半径5メートル以内のことだけ、もしくは今日のことだけを見て、とりあえず生き延びられたからラッキー、と思いたくなる。世界は崩壊しつつあるけれど、私は今日おいしいアイスクリームが食べられて幸せ、みたいな。そしてそんな行動や気持ちを肯定するような自己啓発本が多い。

 それが悪いっていうんじゃないのだけれど、それこそ奥歯の間にはさまった食物繊維みたいな感じで気になる。

 マシュマロ食べて夏バテを防ごうっていうノリは、虫歯になって太るくらいですむかもしれないけれど、自己啓発本だけに頼って現実から目をそむけ、目の前のささやかな幸せにすっぽりくるまれていることに満足しているのは、ほんと危ういんじゃないでしょうか。