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  「エキストラバージンの嘘と真実」 
トム・ミューラー著  実川元子訳  日経BP

 

 昨年11月末に出た本なのですが、うまくアップできなかったためにあらためて記事をあげます。
 また、日本がTPP参加を表明した後、とくに農業製品について強い危惧を覚えたので、「人が口に入れる製品をグローバル化する上では、どんな覚悟が必要か」を問い直してもらいたくて、この時期に再度載せることにしました。こと食べるものに関して、価格が安ければいいじゃないか、という考え方では、社会は衰退するのではないか、とさえ思います。取り上げているのは、オリーブオイルという私たち日本人にはあまりなじみのない食品ではありますが、これはそのまま主食である米やパンにも通じる危機です。

 以下、本の紹介です。

 南欧の人々が浴びるようにオリーブオイルを摂取しているにもかかわらず、心臓疾患の罹患率が驚くほど低いことに気づいた米国の医師が、オリーブオイルの効能に着目して「地中海式食事法」を唱えてからすでに半世紀近く。同じアブラでも、バター等の動物性脂肪と違って、オリーブオイルには血液をサラサラにし、抗酸化作用があるために心臓病や脳卒中、がんを予防する効果があるだけでなく、老化を遅らせる効果もあること
が科学的に明らかになっています。
 ところが、オリーブオイルと表示されて販売されていれば、どんなものでも十分にそんな効能があるわけではありません。質の悪いオリーブオイルにはそんな健康効果は薄いし、それどころか摂りすぎると健康を害するリスクさえ高めかねません。
 イタリア、リグーリア州でオリーブ園を営むほどオリーブオイルに魅せられたジャーナリストである著者は、オリーブオイルをつくることがいかに手間ひまがかかり、オイルが製造して直後から品質が劣化し始めることを知って、なぜこれだけ多くの「エキストラバージン」が安価に世界中で売られているのかに疑問を持ちます。そして調べて行くうちにわかった驚愕の真実! 
 たとえば、イタリア産エキストラバージンと称するものの約6割はイタリアで生産されていないばかりか、エキストラバージンの規準をまったく充たしていない。それどころか、オリーブオイルでさえもないアブラ(たとえばヘーゼルナッツオイルや菜種油)に平気で「EXバージンオリーブオイル」とラベルがつけられ、私たちの近くにあるスーパーで安売りされているのです。
 品質がいくらよくても、価格競争に負ければ生産業者は廃業せざるを得ません。現在、イタリアでは価格競争に負けて廃業するオリーブオイル生産業者があとを絶ちません。企業努力が足りない? もちろんそれもあります。でも、潤沢な資金力を持ち、近代的設備を整え、しかも品質を守ろうとするする良心的な生産業者でも、現状では廃業の危機にあるのです。
 なぜなら、「価格競争」が公正に行なわれていないから。偽装という不正のもとでの「価格競争」で負けたとしたら、そのツケを支払うのは生産業者だけではなく、私たち消費者なのです。TPP参加を決めたというのであれば、日本政府はよくよくそのことを肝に銘じてほしい。譲れない品質基準がある、ということをはっきり示せるのか?(ちなみにアメリカの食品の品質基準と検査ほどいい加減なものはない、と本書にあります。そもそも検査も規準もロビイストの一声でいくらでもどうにもなる、らしい)。農薬をふんだんに使っている米や麦に「オーガニック」と平気で書いてあっても、それを見破り、輸入しないという覚悟はあるのか、と問いたい。本書は、オリーブオイルという一製品に限りません。「グローバル化」という競争の勝ち負けは、私たち消費者に露骨に跳ね返ってくるのです。

 という話はさておき、本書は、偽装問題に斬り込むだけではありません。
 なぜオリーブオイルが人体によいのかについての科学的研究についても詳述されています。少しややこしいけれど、簡単に言ってしまえば、正しいオリーブオイルを摂取することで、血液はサラサラになるし、心臓病や脳梗塞の予防になるし、癌も防げるということがわかります(それだけわかればいいよね)
 また、4000年以上前から人類が灯り用に、また薬や食用として珍重してきたオリーブオイルの歴史についての多くのページが割かれるだけでなく、聖書や文学作品の中でのオリーブオイルの扱われ方についてもふれられています。いわばオリーブオイルの文化史と言ってもよい。
 さらには、正しいオリーブオイルの選び方から、現在販売されているオリーブオイルのおすすめブランド、購入できる店まで紹介されているオリーブオイル事典でもあります。
(ちなみに、オリーブオイルは試飲すべきです。最近では、専門店で、また伊勢丹地下食品売場などに設けられたオリーブオイルコーナーでは試飲ができます。良いオリーブオイルは、においをかいだときに青くさい植物の香りがして、口に含むとべたついた感じがないかわりに苦みがあり、飲み込んだときに思わず咳き込むほどの刺激があります。甘くてまろやかなものは品質が悪い、と思ってまちがいない)
これを読めば、食生活はもっと健康に楽しくなること間違いなし!(ま、少し怖くなりますけれどね)



 
エキストラバージンの嘘と真実
トム ミューラー
日経BP社
2013-08-12