入稿したら見に行こう、とそれが楽しみだった映画。
きのうやっと吉祥寺バウスシアターにて観賞。
今季、まちがいなくNO1の傑作!
映画のラスト10分、私は知らないうちに泣いていて、くもるメガネをふきつつタイトルロールの最後まで楽しませてもらった。
(以下ネタバレ)
カナダ、トロントで結成されたヘビメタル・バンド、ANVIL(アンヴィル。金床という意味)は、1982年にリリースされたアルバム『メタル・オン・メタル』がややヒットしたくらいであとは鳴かず飛ばず。メタリカ、スレイヤー、アンスラックスといったほかのヘビメタ・バンドが成功して「大物」になっていくかたわら、「売れる!」とか「成功!」とか華々しさとは縁遠いまま、バンド結成30年以上たち、いまだに現役である。
映画は、アンヴィルの中核であるギター&ヴォーカルのスティーヴ・"リップス"・クドローと、ロブ・ライナー(ドラム)の2人の今を追いかける。2人は地元で14歳のときから音楽を通じて知り合い、バンドを結成してすでに36年もたつ。映画の最初のほうで、昔、ロブが住んでいた家の前で語る2人のシーンがある。
「ここの地下でロブはドラムをたたいていたんだ。スピーカーを外に向けてわざと聞かしていたんだよな。頭おかしいんじゃないかと思った。あんな大音響で毎日毎日。しかも好きなバンドはって聞いたら、カクタスとかいうんだぜ」というリップス。ロブはにやにやしながら「うんうん」とうれしそうにうなずく。2人とも14歳からまったく変わっていないにちがいない。(頭は薄くなり、腹は出ているが)
ロブもリップスもユダヤ系移民で、ロブのお父さんは終戦まで収容所にいたそうだ。戦争中は生きるためにはなんでもした、というお父さんとお母さんは、息子が「やりたい」ということをなんでもやらせて、たとえそれが自分たちには理解ができないヘビメタであっても、喜んで応援してくれたそうだ。
一方、リップスの家庭はユダヤ系らしくみんなお勉強がよくできることに評価が高く、ヘビメタに夢中になって高校を中退したリップスに両親もほかの兄弟姉妹も批判的。ほかの子供たちのエスタブリッシュ度がすごいんだわ。会計士とか医者とか会社社長とか...。裸にボンデージで、ヴァイブでギターを弾く弟にみんな戸惑い気味。会社社長とかいう弟は、いかにもなきちんとした服装で「アーティストだからね、もうこちらの常識は通じないんだよ」とかあきれ顔で言う。その前に「リップス、地元のバーで50歳の誕生日を祝う」なんてシーンがあって、リップス自身が長髪(後ろがややハゲ気味)をふりみだしてギターを演奏し、「魂の叫び」を吠える! いや、兄弟でこの格差は笑うしかないだろ。
14歳のときから音楽への情熱を燃やし続けて、必死になっている2人のひたむきな姿は、ひたむきであるほどおかしみを増す。周囲から「もうやめたら?」「いまさらヘビメタじゃないだろ。今の音楽シーンに合わない」「ほかにやることがあるんじゃないの(もう50歳なんだからさ)」というしごくまっとうで親身(w)な意見に揺らぎ、落ち込む2人。それなのに、ツアーの申し出があると飛び上がり、有名プロデューサーにアルバムの話を持ちかけられると顔を輝かす。その姿が無性にせつなく、失笑させられる。
妻や子供たちの支えがすばらしい。リップスの奥さんが「彼は本当に家族のことを考えていて(ここで私はツッコム。家族のことを考えていたら、一銭の稼ぎにもならない欧州ツアーなんて行かないだろ!)子供の面倒も見てくれるの。だから私は応援したいし...」と言ったところで、奥さんの頬に涙が伝う。「あれ? 私なんで泣いちゃってるのかしら」とかいうんだけれど、いや、泣いてしまう気持ちよくわかりますです。またロブの奥さんがレストランでパートに出ているシーンもあって「ほんと、私は辛抱強い妻だと思うわ」とかいう。「本当はやめてほしいと思うことも多いのよ。いろいろあるから。でも、つぎは成功するかもしれないじゃない。結局私も成功したロックスターの妻にあこがれてるのかもね」という気持ちも、ほんとわかりますです。
なかで私がもっとも感動したのがリップスのつぎの言葉。
「おれたちは復活したんじゃない。ずーっと現役なんだ」
「現役」のプロミュージシャンを(30年間も成功なしで)続けていくことは、並大抵のことじゃない。もしかしたら、今まで成功していなかったからこそ、30年間も現役でいられるのかもしれない。それでも、一度おいしい目を見て、いったんやめてから「またあの栄光を味わいたい」と「再結成」とか「復活」するミュージシャンが、えらくさもしく思えた。
いろいろ仕事をやってみたけれど、「結局これしかできない」という人がいる。天職と言うと聞こえはいいけれど、そんなかっこいいものじゃなく、ほかの何をやってもまったく能力がなくて無理、という不器用な人なのだ。現にリップスは、アルバムを制作する金を稼ごうとセールスの仕事をするのだけれど、社長から「マニュアル通りにやればいいんだ」と言われても、それがまったくできない。
融通が利かない。不器用。ヘタクソ。そういう人は、それ以外できない一つのことを生涯現役で貫くしか、生きていく道はないのだ。実は私もちょっとそういうところ(不器用、ヘタクソ、できることが少ない)、『アンヴィル』には本当に共感したし、励まされはしなかったけれどw、心が動いた。
最後に。
ヘビメタなんて......ドキュメンタリーなんて......売れないミュージシャンなんて......と敬遠しているそこのあなた。
これ見逃すと、2009年は損しますよ!