「PK 最も簡単なはずのゴールはなぜ決まらないのか?」
ベン・リトルトン著 実川元子訳
カンゼン  3024円
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1個のボール、1つのゴール。ゴールの正面、12ヤード(10.97メートル)に1人のキッカーがボールをセットする。ゴール前に立つのは1人のゴールキーパー。静止したそのボールをキッカーが蹴り、ゴールキーパーはそれを阻止しようとする。単純であり、簡単である、という意味でとてもシンプルだ。そこにはサッカーのエッセンスが詰まっている。
ペナルティエリア内で手を使う、または得点しようとした選手を引き倒すなどして得点阻止をはかったとき罰則として与えられるペナルティキック。また、試合が引き分けに終わったとき、勝敗を決するためにPK戦が行なわれる大会も多い。ワールドカップでも決勝トーナメントでは延長まで闘って同点ならばPK戦で勝ち抜くチームが決められる。
とてもシンプルなはずなのに、なぜかPKでゴールできないことが少なくない。ゴールキーパーに止められるだけでなく、ゴールの枠内にボールを蹴り込むことができない選手も多い。欧州のトップリーグでもPK成功率は70%代だ。世界屈指のプレーヤー、たとえばメッシやクリスティアーノ・ロナウドでもPKを外す。クラブチームではほとんど外さない選手が代表の大事な試合になると外したりする。なぜPKは百発百中ではないのか? 
PKによって勝敗が決することも多い。重要な試合になるほど、得点機会としてPKの重要性は高まる。特にPK戦はその成否がチームの未来を左右するといってもいい。
それなのにいまだに「PK戦は運だ。試合とは関係がない」と言い放って練習も研究もしない代表チームがある。その代表がイングランドで、イングランド代表は1996年欧州選手権準々決勝のPK戦でスペインに勝って以来、主要大会を6回もPK戦で敗退している。著者は自分たちの代表であるイングランドが、なぜPKにもPK戦にも弱いのか、どうすればPK戦に強くなれるのか、その原因と対策を知りたくて世界中を飛び回って取材を重ねた。
取材対象は選手や監督、コーチに留まらず、審判、心理学者(PKは心理戦の要素が強い)、経済学者、文化人類学者までにおよび、しかも著者はサッカーのみならずゴルフ、アメリカンフットボール、ラグビーの関係者にも話を聞きにいった。
著者はPKに強くなるための多くのヒントを見つけた。技術面、心理面、指導方法から環境面、と多分野にわたって豊富なデータからはじきだされたヒントを、著者リトルトンは惜しげもなく本書で公開している。サッカーノミクスというサッカーのコンサルティング会社の取締役でもある彼は、クラブや代表チームにデータ分析に基づいたさまざまな情報を売りアドバイスをしているが、その重要な販売品目の一つがPKに関するものであることは間違いない。
もちろん、日本代表と日本のクラブチームがPKに強くなるためのヒントもたくさん詰まっている。
遠藤保仁選手のコロコロPKも紹介されているし、宮本恒靖選手が代表の主将としてのぞんだアジアカップの準々決勝対ヨルダン戦のPK戦で、ゴールの場所を換えたエピソードも紹介されている。(つまり、ガンバサポにはたまらない内容ですよ、と言いたい)
とりあえず、PKを止めたのを見たことがないガンバの東口選手に、チェルシーのチェフ選手のPK阻止率がなぜ高いのかを知ってもらうためにぜひ読んでもらいたいです。