ここ数ヵ月間、私がかなり熱心に食いついているのが、米国大統領選挙に関する話題です。もちろん食いつき度合いが高いのは、ドナルド・トランプ氏の言動と、それが投げかける波紋についての記事です。政治に関しての発言はあまりここに書かないようにしているのですが、トランプ氏がいよいよ共和党選出の大統領候補になろうとしている今、これは時代の大きな節目なのではないか、という危機感が強くなったので、書いてみることにしました。
20年ほど前、私はトランプ氏に興味を惹かれて、というか、トランプ氏の前の奥さん、イヴァナさんに興味を惹かれていろいろ調べたことがあります。コラム記事も何回か書きました。ニューヨークに行ったとき、トランプタワーも見てきました。その後、2002年に「エンパイア」(ミッチェル・パーセル著文藝春秋)というアメリカの不動産についての本を翻訳したときにも、トランプ氏の事業についてだいぶ詳しくなりました。 リアリティ番組のアプレンティスも2回ほど観たことがあります。
つまり、トランプ氏は私にとって「アメリカ的なるもの」をつかむための一つの手がかりでした。過去形にしましたが、今回の大統領選を追いかけながら、20年前にトランプ氏に感じた「アメリカ的なるもの」の印象が、当時とは打って変わってネガティブな意味で強まっています。
あくまでも感覚的なものなんですが、いい意味でも悪い意味でも、底が浅くて、ギラギラしていて、無駄に派手で、作り物っぽくて、感情表現や理屈がわかりやすい、私がトランプ氏を通じて感じるアメリカ的なるもの、です。恐らく、「そんなのはアメリカの一側面でしかない」と反発を受けるでしょうが、反発するのはたいていインテリで、アメリカ全体からすると「ほんの一側面にすぎない」のは彼らのほうなのでしょう。
共和党の大統領候補となることが確実視される、ということは、トランプ氏を支持しているアメリカ国民は、最低でも1000万人はいるということです。なぜ彼を自国を代表する政治家として支持する人が1000万人もいるのか、というのが私にはとても不思議なのですが、昨年ベストセラーになった森本あんり著「反知性主義」(新潮選書)を読んでやや納得しました。
帯に「アメリカ×キリスト教×自己啓発=反知性主義」「いま世界でもっとも危険なイデオロギーの根源」とあります。
なぜアメリカではインテリへの反感が強いのか?
なぜテレビ伝道者が大きな力を持つのか?
なぜ精神分析、カウンセリング、自己啓発が大きな産業になっているのか?
その理由の一端を、国際基督教大学の森本あんりさんが歴史的に解き明かしています。
そしてトランプ氏がなぜかくも大きな支持を集めるのか、どんなアメリカ人が支持しているのか、が見えてきます。こんなことを言ってしまうと失礼かもしれませんが、トランプ氏はテレビ伝道者や自己啓発セミナーの講師に一脈通じるところがあるのだと思います。しかもビジネスとして大成功していることで、その言動にひれ伏す人が多いのもうなずける。
「反知性主義」の中にこんな一節があります。
「アメリカ人にとって、宗教とは困難に打ち勝ってこの世における成功をもたらす手段であり、有用な自己啓発の道具である。神を信じて早起きしてまじめに働けば、この世でも成功し、豊かで健康で幸せな人生が送れることが保証されるのである。逆に、悪いことをすれば必ず神の審判を受けねばならない」
この「宗教」を「政治」に置き換えた、もしくは混同させてしまったのがトランプ氏なのではないか。「アメリカでテロや犯罪や貧困といった「悪いこと」が起きているのは、「(キリスト教の)神」を信じてまじめに働いていない人たちのせいだ。私はそんな人たちを正すために、神に代わって(大統領になって)審判を下す」、、、、というのが、トランプ氏の言いたいことなのではないか。移民排斥や妊娠中絶を処罰する、という発言を聞いていて感じるのがそこです。
私が家族や友人たちに「トランプさんが大統領になったらどうする?」と聞くと、一ヵ月前には「いやーならないよ。ヒラリー・クリントンだよ、きっと」と一笑に付されていました。だが、今ではみんな本気で「もしもなったら〜〜」という事態を予想して暗い顔つきになります。
ドナルド・トランプ氏が米国大統領になったら………………世界は今以上に危機的状況になるのではないか。いろいろな意味での備えが必要になりそうです。