新刊「翻訳というおしごと」
実川元子著
アルク刊 1500円+税
翻訳というおしごと(表紙)

新刊が出ます。今回の本は、翻訳業という仕事を紹介する内容です。翻訳業といっても、たいへんに幅広い。たとえば翻訳は扱う素材によって、大きく3つの分野に分けられます。ビジネス、産業、医学、法律といった分野で発生する素材を扱う「実務翻訳」、映画、テレビ番組など映像に関わる素材の翻訳は「映像翻訳」、小説、ノンフィクションなど書籍については「出版翻訳」と呼ばれます。そういうことも意外に世間には知られていない。ましてや翻訳者がどうやって仕事を受注し、どういうスケジュールで仕事をし、どれくらいの報酬を得ているのか、などは翻訳業界にかかわっている人たち以外はほとんどご存知ない、というのが25年間この業界で仕事をしてきた私の印象です。
かくいう私も、自分が身を置いてきた「出版翻訳」以外の翻訳者もその仕事内容もほとんど知りませんでした。出版翻訳はすでに仕事として成立っていかない状況にあります。書籍の販売が右肩下がりで落ち込み、印税率はもちろん初版部数も下がる一方。だから最初にこの本の企画を編集者に打診されたとき、「翻訳業に未来はないんじゃないの?」とか及び腰でした。だが、翻訳業界全体としては実は翻訳は将来性がある仕事なのではないか、と編集者と話しているうちに思えてきました。
それ以上に、25年間やってきて、翻訳はまーーーったく儲からない仕事だけれど、とてもおもしろいしやりがいがある仕事だ、とは思っていることもあって、しだいに「書いてみようか」という気持ちに傾いていきました。何よりもグローバル化の蓋が開いてしまったこの世界で、翻訳なしに特に日本は産業も文化も社会も成立っていかないことは確かです。翻訳という仕事の重要性は高まるばかり……というか、必要不可欠な仕事ではないか、と私は考えているわけで、だから、翻訳業の重要性、必要性をもっとわかってもらいたい、ということで思い切って執筆を引き受けました。
ただ、私が通じているのは出版翻訳のみ。そこでアルクが毎年出版する「翻訳事典」の編集長である佐藤直樹さんとこの本の編集者である美野貴美さんに、実務、映像、出版を主戦場にしている翻訳者の方々を紹介していただき、取材をすることにしました。現在第一線で活躍しているとてもお忙しい方々ばかりだったのですが、なんと取材を申し込むとすぐに快諾いただき、2時間以上(ときには半日近く)に及ぶ取材に熱く語ってくださいました。それくらい、みなさん、翻訳業の現状と未来について考えるところが多かった、ということです。
よってこの本は、たしかにキーボードを叩いたのは私ではありますが、取材させていただいた方々の思いが結集したものです。よって、ここに感謝を込めて名前をあげさせていただきます。(あいうえお順)
新井珠美さん、井口富美子さん、井口耕二さん、齊藤貴昭さん、鈴木立哉さん、関口佳子さん、仙野陽子さん、野村佳子さん、林原圭吾さん、森口理恵さん、新楽直樹さん、本当にありがとうございました。みなさんのおかげで、「なるには」ではない形で、翻訳という仕事を紹介する本ができました。

本書の発刊を記念して、新宿紀伊国屋でトークイベントを行ないます。それについて、つぎのエントリーで紹介させてください。