親の家にあったアルバムを妹と半分に分けて持ち帰り、デジタル化する作業に没頭しております。真っ黒で何が写っているかわからないような紙焼き写真も、デジタル編集してみるとかなり鮮やかによみがえるものなのですね。デジタル技術、万歳!
大正初期から昭和の戦争直後くらいまでの写真を見ながら、祖父母や親、親戚の過去を振り返り中です。私が生まれるよりかなり前の写真ですから、写っている人たちのほとんどは知りません。 今のうちに母に聞いておかないと、自分のルーツがほとんどわからないままになってしまいそう。あせっています。
私はこれまで、過去はもういい、私は今と未来にだけ目を向けて生きていきたい、なんてほざいていました。だからアルバムなんて興味がなかったのですが、家をたたむ作業で思い知らされたのは、過去があるからこそ今の自分があり、未来の自分は過去の積み重ねの上にあるのだ、ということです。そんなことに還暦過ぎて気がつくなんて、やや遅過ぎなんですけれど、それでも今気づいておいてよかった、ということにします。
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(昭和12年ごろらしい。母が当時住んでいた岡山県の家のご近所の子供たちと。色褪せて不鮮明な写真はデジタル技術でよみがえります。そして記憶はデジタル技術など必要なく色褪せないのだ、と母の話を聞いてわかりました)

父が亡くなった後、母がぽつりと言ったことがあります。
「年をとるのって、本当にさびしいことよ。あなたはまだわからないかもしれないけれど、親しい人たちがみんな死んでいってしまって、一人取り残されているような気がする」
正直、私には母が言う「取り残されていくさびしさ」がよくわかりませんでした。連れ合いは亡くなったけれど、娘たちだっているし、孫もひ孫もいて、仲の良い友達と一緒に旅行に行ったり、楽しんでるじゃない、何がさびしいのか! なんて冷たく思っていたのですよ。
でも、今回、アルバムの中に青春をしている母を見ているうちに、母がしきりに口にするさびしさが少し理解できたような気がします。

 昭和7年生まれの母は、小学校高学年から中学生で戦争を経験し、戦後まもなく20歳で結婚してすぐに私たち姉妹を出産しました。母がはつらつとして輝いているのは——あくまでも私の目から見て、ですが——結婚出産後、私たちがまだ手がかかっていた時期の育児期間中でした。そのころ私たちを連れて同窓会に出たり、私の幼稚園の同級生親子と遊園地や行楽地で遊んでいる母の写真は、自分の母親ながら「うわっ!」と言いたくなるほど美しい。そして、一緒に写っているお母さんたちも同じくらいはつらつとしてきれいなのです。
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(結婚後の同窓会で。左から2番目が母です。)
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(幼稚園の遠足付き添いらしい。私が3歳くらいですね、これを見ると)

うがった見方ですが、母と同世代、現在80代半ばの人たちは、まだまだ親が年頃の娘をきつく束縛していた時代に10代を過ごした人たちです。ところが戦後、大きく価値観が変わり、女性たちを縛っていたものが少しずつほどけていったのではないでしょうか。自由を謳歌した、とまではいかないにしろ、戦後の解放感とあいまって、母の世代の女性たちにとっての青春は、20歳をすぎてやってきたのだと想像します。ああ、戦後なんだな、青春なんだな、と思いたくなるほど、アルバムの20〜30代の母と友人たちは笑顔がいっぱいで、自信に満ちていて、はつらつとしています。女学校時代の写真は、どれも表情がかたいのですが、20代となると大口開けて笑ったりしている。そしておしゃれです。戦争中はたぶん許されなかった洋装のおしゃれを、満喫しています。

しかし、母が親しくしていた人たちは40代を過ぎるころからぽつりぽつりと亡くなられていきました。「10代初め、育ち盛りの時期に戦争で栄養状態が悪かったせいだ」と母はお葬式から帰ってくるたびに嘆きました。特に、大親友だったらしく、一緒に写っている写真が何枚もある方が40代半ばでなくなられたことはこたえた、と言います。そしてアルバムで輝いていたおかあさんたちは、今ではほんの数名しかご存命ではない。
当時の記憶は、母の中で驚くほど鮮明です。仲良くしていた人たちの 苗字と名前がすぐに出てくるし、住んでいる場所、家族構成、子供の学歴にいたるまで覚えています。記憶は少しも色褪せていない。
だからさびしさがつのるのかもしれない、と私は推察します。
母の記憶の中で輝いている人たちは、もう記憶の中にしかいません。「あのころ楽しかったね」という思い出を共有する人たちは、もうこの世にいないのです。自分の記憶の中では鮮明なのに、思い出を振り返ることができない。
老いることのさびしさ、というのは、色褪せない記憶があるからよけいにさびしさがつのるのかもしれません。 
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(昭和33年の神戸の光景、らしいです。服がとってもおしゃれ。しゃがんでなんかやっているのは私です。当時、母たちは自分たちで服を作っていました。母は洋裁が趣味で、洋裁教室の仲間とも仲良くしていたようです) 
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 (実家近くの浜辺で遊ぶ母と友人。ぞうりなのに、おしゃれワンピース! そしてなぜか真珠のネックレス! お友達、スタイルがいい!)