40歳になったころから、私は一人暮らしに憧れています。長女が中学生、次女が小学生で子育てに一息ついたころからです。一息ついたといっても、家族関係は子どもが幼いときよりもはるかにむずかしくなっていました。ときどき「全部投げ出してどこか遠くに行きたい」「ああ、もう一人でのびのび暮らしたい」と本気で思いましたし、家族にも言いました。でも、結局、責任感とか常識というのが邪魔をして今にいたっています。
でも、そのときから変わらず今も一人暮らしは憧れです。
その昔、親といろいろとあって、一人で東京に出てきて就職し、一人暮しを始めました。
初出勤の朝。ときは春。きらきらと陽光が降り注ぐなか、アパートを出て、20分ほど歩いて駅に向かうとき、それまで感じたことがないほどからだが軽く、気持ももちろん軽く、全身で幸せを実感しました。この上もなく足は弾み、誰もいなかったら口笛をふいてスキップするところでした。
一人暮らし、一人で働いて自活する(実際は自活はなかなか厳しいものではありましたが、そのときは自活という言葉にうっとりしていました)、誰にもあれこれ批判されない! 憧れていた生活の始まりです。すべてが輝いて見えた朝でした。
まあね、それからあっさり一年あまりで結婚しちゃって一人暮らしはそれっきりでしたけれど。
その後も私は一人暮らしにたまらなく憧れています。東京に出てきて一人暮らしを始めた朝の至福が忘れられないのかもしれません。
ないものねだりなんじゃないか。家族がいるからこそ思えるぜいたくじゃないか。そう思いながらも、ほぼ毎日、「もし一人暮らしになったらどうするか?」と架空の生活をうっとりと思い描いていたりするのです。散歩のときには、マンションとかアパートを見かけるたびに、「50平米くらいの部屋はないかな」とか考えてしまう。
そんなの単に夢想しているだけ。ぜいたくな夢を見ているだけ。そう自分をいさめていました。
そしたら昨年、女性の友人複数人から「実は家族とは別居して一人暮らししているんだ」と打ち明けられたのです。
友人たちは既婚者です。子どももいます(成人していますけど)。でも、数年前からそれまで家族と暮らしていた家を出て、一人で暮らしているとのこと。離婚はしていないしする気もない。でも、家族と一緒に暮らすのはやめた、という友人たちの顔は、晴れ晴れとして自信があふれていました。淡々としていて、肩の力が抜けていて、そして媚びていなかった。あ、思い切って人生を整理したんだな、と思いました。
私は拍子抜けしました。なんだ、やろうと思えばできるんじゃないか。
私は何を迷っているのか。
一人暮らしは寂しい、と言われます。とくに単身世帯の高齢者は不安と孤独にさいなまれる、と言われています。
でも、本当にそうでしょうか? 高齢者の孤立は問題がいろいろと起こるでしょうが、孤独を好む、もしくは孤独に生きることを自ら選択したい高齢者だっているのです。
家族がいないと不幸。孤独な高齢者はみじめ。それは思い込みにすぎないのだ、と私は友人たちに教えられました。
 私は孤独を楽しめる高齢者になりたいです。
 前々からここで何回となく書いているように、一人で生きていく潔さを持ちたいです。