実はGWのしょっぱなで私事でいろいろとあって、とてもブログを更新する気にならなかったのですが、ようやくちょっと気持ちが落ち着いてきたので忘れないうちに最近読んだ本と観た映画について一言ずつ書いておきます。

観た映画
『幸福なラザロ』
Bunkamuraにて鑑賞。アリーチェ・ロルヴァケル監督。イタリア映画。カンヌ映画祭で脚本賞を獲得したそうです。20世紀後半、北イタリアの山奥で、すでに政府によって小作人制度が廃止されたことも知らずに、タバコの葉栽培でせっせと「侯爵夫人」の小作人として働く小さな村の人たち。その中に一人、ラザロという気のいい働き者の青年が、みんなにいいように使われています。そこに事件が起こって警察が山奥まで駆けつけ、侯爵夫人は詐欺を働いていたことが発覚して逮捕。村人たちはみんな都会に連れて行かれますが、ラザロだけは直前に崖から転落して山中に取り残されます。20年以上たってラザロは「復活」し、村人たちを追いかけて都会に出ていき……という内容。まあなんというか、現実とファンタジーがないまぜになった内容で、私は正直あまりおもしろくなかった。でも連休中は毎回満席。うーん。

『希望の灯り』
Bunkamuraにて鑑賞。旧東ドイツ、ライプツィヒ郊外のスーパーマーケットが舞台。若いころにギャングに入っていた青年が、更生して業務用スーパーの在庫管理係として雇われ、先輩や同僚たちにしだいに心を開いてとけこんでいく、というただそれだけのストーリー。もちろんちょっとした事件も起こるし、恋もあるし、東西統合されたあとに取り残された人々という社会問題もバックにはあるけれど、 たぶんテーマも主役もそこじゃなくて「スーパーマーケット」です。原題は「通路にて」。まさにその通り。消費社会の象徴のような巨大スーパーの通路で行き交う人たちを淡々と描いた、なんというか、ニュアンスとしては「ロードムービー」みたいな内容と私は感じました。だから「希望の灯り」っていうタイトルはちょっとどうかと思う。なぜか空席いっぱいでしたが、隣で上映されていた『幸福なラザロ』よりも私の頭の中には余韻が残りました。

『万引き家族』
WOWOWにて鑑賞。是枝裕和監督作品の中では、息苦しい路線のトップに躍り出た作品。『誰も知らない』よりも重い。で、この作品はなんといっても「安藤サクラ」がすばらしい。安藤サクラが出てくるシーンだけ、数回見直したくらいの迫力。泣けるとか笑えるとかいうシーンはほとんどないのですが、警察で取り調べを受ける安藤サクラの表情を長回しで撮ったシーンは2回観て2回とも一緒に泣きました。このシーンだけでも、安藤サクラは映画史に残る俳優になった、と私は思います。安藤サクラの演技なしでは、作品はちょっとベタな内容に堕してしまったかも。すみません、生意気言います。

読んだ本
『父が子に語る近現代史』トランスヴュー
『靖国史観〜日本思想を読みなおす』ちくま学芸文庫 
ともに思想史家の小島毅さんの著書。
平成から令和に変わるそのときに読むのにふさわしい2冊でした。2冊とも小島さんの歴史観、日本史観が明快に述べられている本です。歴史を読むとはどういうことかをあらためて問いかけられました。大河ドラマや司馬遼太郎をはじめとする歴史「小説」と、歴史とは別物であることをもう一度自分に言い聞かしています。思想史ではありますが、わかりやすくまとめられていて、しかも教科書的ではない。こういう書き方で学んでいれば、歴史がもっと身近に、そして自分に惹きつけられて読めたのに、と思いました。
上記の本、第4章「世襲」を支える「忠義」の理屈、は必読かも。
「しかし、将軍が代々世襲されるようになると、当主の器量は小さくなってきます。僕は、これは人類史上の普遍的な真理だと思います。政治は世襲でできるものではありません。ではどうするか。古来、そのための言い訳、凡庸な人物でも世襲で政治権力を継げる理由が考案されてきました。「忠」というのも、その一つです」 

『私の名前はルーシー・バートン』
『何があってもおかしくない』
早川書房 
エリザベス・ストラウト著 小川高義訳。
『オリーヴ・キタリッジの生活』を読んで以来、エリザベス・ストラウトのファンになって、どちらも読んでいたはずなのに印象が薄かったので再読。ストーリーテラーとしてはもちろん、作品構成、人物描写、どれも気を衒わず、技巧的でなく、それなのにすばらしくうまい。登場人物の人生に、じんわりと同化していける不思議な小説です。

『ある男』
平野啓一郎著。
ほぼ一晩で一気読み。「私とは何か?」を問い続ける平野啓一郎の真骨頂。推理小説とも言えるし、哲学小説みたいでもある。井戸まさえさんのご自身の体験を踏まえての『無国籍の日本人』の衝撃とは別物の衝撃ではありましたが、名前や生まれ、家族、仕事などで枠組みを作られない「自分」を考え直しました。
(失礼しました! タイトルを桜庭一樹さんの『私の男』と取り違えてしまいました。ご指摘ありがとうございます。で、ついでみたいで申し訳ないのですが、『私の男』も実におもしろかった。この本、ちょうどチョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』、『ヒョンナムオッパへ』(韓国フェミニズム小説)、姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』を読んで、強い共感とともに、この(男性)社会への無神経さと強欲への苛立ちと嫌悪感に包まれていたときでした。これらの小説をひとまとめに「フェミニズム小説」としてくくるのは抵抗がありますが、やはりフェミニズムについては避けて通ってはいけない女65歳だと思うので、気持ちを落ち着けて一度「フェミニズム小説」について書きます)

アンデシュ・ルースルンド;ベリエ・ヘルソトレムの3冊
『三秒間の死角』
『制裁』
『地下道の少女』

どれも面白くて一気読みでしたが(ただし『地下道の少女』は中だるみして、しかも読み終わって「え? これでいいわけ?」でしたが)一番残ったのは『制裁』でした。人を殺してはいけない、という法律を条件付きで「殺してもしかたなかった」としたとたんに起こる社会の無秩序。死刑制度についてもあらためて問いかける内容でした。

だんだん疲れてきたので、あとは感想抜きでタイトルのみ。
『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話』ヤニス・パルファキス著(タイトルが大げさすぎるし、長すぎる。うっかりポチってしまって、あっという間に読んでしまったが、「とんでもなくわかりやすい」というタイトルをつけた本を読むんじゃなかった、とストレスを感じた)
『償いの雪が降る』アレン・エスケンス著 創元推理文庫(おもしろく読んだのだが、主人公の青年がいい人すぎてだんだんイライラしてきた。ま、ファンタジーとして読めばいいんだけれどね)
『悪と全体主義 ハンナ・アーレントから考える』 仲正昌樹著 NHK出版新書(哲学書なのになぜか一気読み。新幹線、品川で読み始めて気がつくと新大阪終点でした。あまりにおもしろかったので、同じ著者の『今こそアーレントを読み直す』もポチってしまいました。が、ちょっと重複するところが多くて、一気読みとはいかず)
 
ほかにも書評用に何冊か読んだのですが、それはまた今度。