友人の92歳になるお母さんが、84歳で夫(友人の父)を亡くしたあともかたくなに娘との同居も施設に入ることも拒み、いまもひとり暮らしをしている、という話を聞きました。友人は「『長年夢見てきたひとり暮らしがやっと実現したのよ。何が悲しくてまた人に気を使って暮らさなくちゃいけないの。晩年はひとりで気ままに生活したいわよ』と母は言い張るのよ」と嘆きます。「年寄りのひとり暮らしはすごく心配。本当に頑固なんだから」と友人はブツブツいうのですが、それを聞いた私は思わず「お母さんえらい!! その気持ちすごーーーくよくわかる!! お母さんの好きなようにさせてあげて!!」と叫んでしまいました。
お母さんは、夫の身体機能が衰え、自分一人で夫の面倒を見るのがむずかしくなったと判断するや、娘たちに相談なしで夫を施設に入居させたそうです。そのときも友人は怒っていました。
「事後報告なのよ。お父さんは○○という施設に入ったから、たまにでいいから顔でも出してあげて、とかいきなり言われて、子どもたちにも相談しないでいったいどういうこと? って半分喧嘩みたいになっちゃって」
 それから2年ほどでお父さんは亡くなられたのですが、その2年間にお母さんは外部の業者を頼んで最低限必要なものだけ残して家財を大々的に整理し、老人が安心してひとり暮らしができるようにと家を大々的にリフォームしたとか。もちろんリフォームに関しても娘たちにいっさい相談なし。「お父さんを自宅で介護するという選択肢はお母さんにはなかったのよね。家をほぼワンルームにしてしまったんだから」と友人はまた嘆いていたのですが、私はそのときも「あっぱれ! お母さん!」とたたえました。
 私はそのお母さんに会ったこともあるのですが、よく言えばしっかりして自立心が旺盛、決して群れず、我が道を行くタイプ。別の見方をすれば、気位が高く、とっつきにくく、ちょっと冷たい印象を与えるほどで、たとえ家族でも一緒に暮らすのはなかなか骨が折れるだろうなあと思わせる女性でした。子供たちは全員大学卒業と同時に家を出て独立。1年に1回、顔を合わせてその年にあったことを報告するくらいの接触しかなかったとか。
 世間の物差しではかれば、冷たい家族関係ということになるでしょうが、私には親子であっても、夫婦であっても、距離を置く、というお母さんの姿勢はあっぱれと思えるのです。友人は「孫の子育てについても、こちらからお願いしますと頼まないと何もやってくれないし、遊びにいきたいとせがまないと実家に呼んでもくれない。冷たい」と嘆きつつも、反面、自分たちの生活にいっさい踏み込んでこない、実家のことを手伝ってくれと頼まれることもない、ということでほっとしているとも言います。
 私にはとてもお母さんのまねはできないけれど、家族であっても(家族だからこそ)大人と大人の関係を貫くということは見習いたいと思うのです。 踏み込んではいけないところには踏み込まない。孤独を恐れない。どう生きていくか、どこでどのように死ぬかということは、できるかぎり自分で決める。まわりに相談はしても、判断をあおがない。晩年こそ、そういう潔い生き方をしたいです。