まだ残暑は続きそうですが、とりあえず夏が終わったということにして、7月、8月で読んだ本を記録しておきます。

「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」
ブレイディみかこ著 新潮社
「子どもたちの階級闘争」以来すっかりファンになったフレイディみかこさんが、新潮社の冊子に連載していたエッセイをまとめたもの。英国南部の町ブライトンで地元の「元底辺中学校」に進学した息子さんとブレイディさん一家が出会う、英国の階級、家庭環境、教育、移民、人種(差別)を体験的につづっています。公立ながら裕福な家庭の子弟が多かった小学校から、いきなり「殺伐とした英国社会を反映するリアルな学校」に進学した息子さんは、いじめあり、人種差別あり、喧嘩あり、の学校生活を開始。崩壊家庭の子どもたちがクラスメートにいて、ドラッグやら売春やらにも11歳にして出会ってしまう息子さんとブレイディさんたちだが、そこはブレイディ一家、くじけず、いじけず、逃げず、かといって立ち向かうこともなく、学校生活を自分たちなりのやり方で楽しんでいくのです。もちろんある意味「闘争」の学校生活なのだけれど、日本人と英国人の間に生まれ育った小柄な息子さんは、英国社会をひょうひょうと泳いでいくのです。

「エスタブリッシュメント」
オーウェン・ジョーンズ著 依田卓巳訳  海と月社
ブレイディみかこさん一家が暮らしている英国は、階級社会だと言われています。そのトップにいて、経済、政治を牛耳っている「エスタブリッシュメント」層とはどんな人たちなのか? 英国の底辺にいる(とされる)「チャヴス」を書いた著者が、今度はトップに斬り込みました。うーん、正直、読んでいる間に吐き気がしそうでした。エスタブリッシュメントと呼ばれる人たちにはエスタブリッシュメント以外の社会階層(9割)から非難が集まりがちなのだけれど、実際、エスタブリッシュメント層以外には腹が立つことこの上ないほど傲慢で、無知で、幼稚で、それなのに金と権力と地位だけはしっかり確保している、という話です。過激左翼(とされている)労働党党首コービン支持者のオーウェン・ジョーンズ(でも彼も学歴経歴はエスタブリッシュメント層なんだけれど)が著者であることを差し引いても、英国社会、エスタブリッシュメント層以外が生きていくのが厳しい! と思えてしまう。ブレクジット後はどうなっちゃうんだろう? ちなみにいまの首相、ボリス・ジョンソンは超エリート階級出身のばりばりのエスタブリッシュメントです。

「よい移民〜現代イギリスを生きる21人の物語」
ニケシュ・シュクラ著 栢木清吾訳 創元社
英国もの3連発のとどめ(?)は移民の本音です。純粋な英国人ってどんな人たちを指すのか、英国に住んでいる人たちだってちゃんと答えられないと思います。純粋な日本人って何ですか、という問いに明快に答えられる人が少ないのと同じ。ロンドンでは移民とその2世、3世が半数を占めると言われるほどですが、数が多くてもどこまでも彼ら彼女らは「移民」扱いされる。そんな英国で、今、市民権を得て暮らしている、またはかつて暮らしてた人たち21人へのインタビュー集です。ルーツはアフリカ系、東アジア系、東南アジア系、東欧系、北欧系、アラブ系、もしくはさまざまな系統の人たちが混ざり合っています。そもそもこの「系」っていう言葉が問題なんですが(たとえば東アジア系=East Asian)欧米に軸足を置いたオリエンタルなんていう差別的呼び方をなんとかしようというので生まれた言葉だからしょうがないそうです。
親もそのまた親も英国で仕事をし、教育を受け、家庭を持ったという人たち。でも「移民」。帯に、編者(移民)が言った「良い、悪いはいつも他人が決めている」とあって、これが言い得て妙。「私たちがポピュラー・カルチャーで活躍したり、競技会で勝利したり、おいしいケーキを焼いたり、良心的な医者になったりすることで、人びとの意識の中の一線を超えて「よい移民」になるまで、社会は私たちを「わるい移民」ーー仕事泥棒、福祉手当にたかる奴ら、ガールフレンドを盗む連中、難民ーーとみなしてくる」。耳が痛くないですか? 移民と向き合わざるをえない今の日本がぜひとも読まなくてはならない本2冊目です。

(出かけなくてはならない時間となりました。帰宅してからつづきを書きます)

さて、帰宅したら疲れて寝てしまったので、翌朝続きです。

「老いと記憶〜加齢で得るもの、失うもの」
増本康平著 中公新書
 毎朝起きて一番にすること。スマホの電源を入れて、今日の予定と天気のチェック。今日やることをカレンダーとリマインダーに入れておかないと、私は約束と締切をすっぽかします。スケジュール、とくにプライベートな飲み会の予定を忘れちゃうのは30代のころからなので、老化のせいだけとは言えないのですが、60歳代になった今、私はスマホにアラームを鳴らしてもらわないと、その日の予定遂行が危うくなっているレベルにまで来ています。老化だ、物忘れ外来に行かねばならないか、と怯えていたところに、いや、大丈夫だよ、記憶補助の道具(スマホとか)を支えていれば、それは認知症ではない、と励ましてくれたのがこの本でした。
 記憶と一口にいっても、短期記憶(昨日やったこと、先週会った人の顔や名前など)、エピソード記憶(思い出、ですね)、ワーキングメモリ(複雑な思考や並列的にいくつもの作業をする能力)、言語的知識(意味記憶、さまざまな知識をつなげて記憶する能力)とさまざまで、脳の働かせ方や働く場所、記憶を蓄えて置く場所も異なる、そうです。そして老化に伴って、言語的知識以外の「記憶力」は50歳代を境に顕著に低下していきます。
 それでは生活に支障をきたさないために、低下をどう補っていけばいいか。スマホなど記憶を補助してくれる道具に頼るのはもちろん正解ですが、もう一つ、生活習慣だそうです。どこにしまったのかわからなくなる、ということを防ぐために、使ったら必ず元あった場所に戻す習慣、決まった曜日に決まった家事をする習慣、忘れてはならないことをメモをする(スマホでも)習慣、なのだそうです。
 しかしいくら補助道具を使っても、正しい生活習慣を身につけても、老化による記憶低下の食い止めは限定的です(悲しい)。それならどうすればいいのか。新しい経験に挑戦する、知り合いを増やして積極的にコミュニケーションをとる、未知の場所に出かけていく、などで新たに神経回路を開いていくことで、脳全体の「可塑性」(柔軟性)が増し、脳が老いて縮んでいき、一部分の機能が衰えたとしても、ほかの箇所が補っていく、ということが可能なのだそうです。よい生活習慣を身につけるのは基本としても、同じことを同じように繰り返して、慣れた場所でよく知った人たちと顔を付き合わせていては脳の可塑性は失われていく。何歳になっても、つねに新しいことに挑戦し、外の世界に興味を持ち、新しい知り合いを増やしてコミュニケーションをとる努力をする、それが肝心。
  読み終わって、なんだかとても励まされました。これからますます老いていくだけなのですが、老いを否定的にとらえない姿勢の一つを学んだような気がします。

あと、書評がらみで読んだ本を何冊か挙げておきます。書評に取り上げなかったけれど、印象に残った本も記しておきます。とくに中村桃子さんの「女ことばと日本語」(岩波新書)と「翻訳がつくる日本語〜ヒロインは「女ことば」を話し続ける」の2冊は、ずどーんとお腹に響く衝撃だったので、「書く書くと言いながらまだ書けていない」フェミニズムについての本のところで書きます(書く書く詐欺にならないように自戒の意味で宣言しておきます)

「女に生まれてモヤってる!」
ジェーン・スー/中野信子 小学館
あの小学館がよくこの対談集を出したな、と妙なところで感心した。この世界でどの年代、どの国、どの社会階層で生きていても、「女子」というだけで抱えざるをえない葛藤に斬り込み、最後に斬り捨てるための方策を教えてくれる。65歳でも女子だよ、私は、と自分で自分の肩を叩きたくなった。

「あなたの人生、片づけます」
垣谷美雨著 双葉文庫
 親の家を処分し、自分の家の断捨離を続行中の私にはもう「そうそうそう、あるあるある」と叫び続けた小説でした。

「厳寒の町」
アーナルデュル・インドリダソン著 柳沢由実子訳 東京創元社
同じ著者、同じ役者、同じ警察署の面々のミステリ。レイキャビク(アイスランドの首都)にまで、というかレイキャビクだからなのか、増え続ける移民と受け入れ側のアイスランドの社会との軋みを描いている。「よい移民」でも言及されているが、欧米男性の中には帝国主義の時代からある一定の割合で、小さくて、かよわくて、従順そうなアジア女性を好む層がある、ということがテーマになっている。事件はすっきり解決したけれど、後味は苦かった。

「特捜部Q〜キジ殺し」
ユッシ・エーズラ・オールスン著 吉田薫/福原美穂子訳 早川書房
シリーズ一作目「檻の中の女」を読んだときに、わー、暴力的すぎて苦手と敬遠していたのだけれど、映画化された4作目の「カルテ番号64」をWOWOWで放映していて、はまって見てしまったので、じゃ、本も読んでみようかとポチった。 やっぱり暴力的で途中で投げ出したくなったのだけれど、なんとか読了。うーん、たぶんもう読まない。映画ではアサドというシリア人男性がかっこよくて好みだったんだけれど。

「バタフライ 17歳のシリア難民少女がリオ五輪で泳ぐまで」
ユスラ・マルディニ/ジョジー・ルフロンド著 土屋京子訳 朝日新聞出版
シリアで戦闘が始まってから、国外に逃亡し、ドイツにたどりついてリオ五輪を目指して泳ぎ始めるまでの緊迫感で一気読み。もちろんユスラとサラ姉妹の水泳にかける思いやまわりの人たちの支えは素晴らしいのだけれど、それ以上に私はかなり進歩的なはずのムスリムの家庭においても、男女が支配と服従の関係にあることにちょっとショックを受けたかな。

だんだん疲れてきたので、あとはタイトルをあげるだけにします。
「夢見る帝国図書館」 中島京子著 文藝春秋
(すごく面白かったので、後日、感想を書きます。これはおすすめ)
「雪花の虎」8巻目まで 東村アキコ 集英社
(上杉謙信が実は女性だったという想定のもとに描かれた漫画。面白い! 早く続きが読みたい)
「団地と移民」 安田浩一著
(これもぜひとも感想を書きたい。腰を据えて!)
「風と行く者」上橋菜穂子著 偕成社
(バルサの過去と現在が重なり合う守り人外伝)
「掃除婦のための手引書」ルシア・ベルリン著 岸本佐知子訳 講談社
(今年のベスト10にぜひ入れたい。書かずにはいられなかった人の言葉が重い)
「夏物語」川上未映子著 
(うーん、共感がなかなかできないまま読了してしまった)
「いかれころ」三国美千子著 
(書評で取り上げました)