セクシュアルハラスメントを訴える"#Me Too"運動が起こったきっかけは、アメリカの映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの30年にわたる女性たちへのセクハラを暴いたNYタイムズの1本の記事だった。2017年10月5日付のNYタイムズ紙に掲載された、たった3300ワードの1本の記事が、「堅固だと思われていた厚い壁を一瞬にして打ち砕いた」(”She Said"まえがきより)のだ。
 ミラマックス社を創設し、ディズニーのヒット作やアカデミー賞を受賞した「恋に落ちたシェークスピア」などで映画界に一時代を築いたハーヴェイ・ワインスタインが、若手女優たちやスタッフ、秘書まで身近の女性たちに「いうことをきかないとクビだ」「いうことを聞けばスターにしてやる」と地位を利用して性的関係を迫り、ときにはレイプし、訴えられそうになると高額な慰謝料で黙らせ、それでもいうことをきかなければ高額の弁護士をやとって悪評をTwitterやSNSでばらまく、という悪辣なセクハラを繰り返していた、というもの。記事を書いたカンターとトゥーヘイという2人は、その後もワインスタインにインタビューをし(もちろんワインスタインはセクハラを全否定)、被害にあったという女性たちにも話を聞き、ついにワインスタインは破産して、逮捕された。記者たちはピュリッツァー賞を受賞した。
 
 この2人が今月、”She Said"という本を出版した。シェアしたのは、「バックラッシュ」で著名なスーザン・ファルディの書評だが、これを読んですぐに本を購入。まだざっとしか目を通していないが、自分自身や周囲の女性たちを見回しても「あるある」と思い当たる話が書かれている。そして「あるよね」とわかっていながら、他人事として黙認するのは大きな不正義につながることを思い知らされた。
 だが、この本はワインスタイン本人と数々の悪行について実はそれほど多くのページを割いていない。むしろ「何がセクハラを生むのか?」「セクハラを女性も男性も(メディアでさえも)見て見ぬ振りをするのはなぜか?」「セクハラを受けながら泣き寝入りし、嫌なことは早く忘れようとすることで、のちのちどんな悪影響があるか?」というほうに力点が置かれている。
 1970年代、まだワインスタインがそれほど有名でも力もなかったころに秘書をしていた当時20代の女性が、彼にレイプされた。だが、弁護士から高額の口止め料を渡され「もし訴えたりしたら、社会的に葬ってやる」と脅された。その女性が半世紀たって記者たちに「あのとき私が黙っていなかったら、被害はのちのちまで広がらなかったのに」と涙ながらに語った話は典型的な「悪影響」だ。
「セクハラって何?」「これがセクハラ? たいしたことしてじゃない」「口を開くとうるさいフェミニストと思われて、嫌われるんじゃないかな」「私は別にセクハラされたことないから関係ない」「女は強いよ、まったく」「男ってほんとダメだね」「据え膳食わねば男の恥って言うじゃないか。誘うようなことをする女もよくない」……そういう言動や姿勢がセクハラの温床となり、社会全体を病ませる。
本書を読めばそれがよくわかる。
映画プロデューサーという特別な権力を持ったエロジジイの話と片付けてはいけない。黙っていてはいけない。#MeTooは起こるべくして起こり、女性だけでなく男性にとってもよりよい人生を約束するための必要な運動だ。それがはっきりわかる本である。
Faludi2-superJumbo