ユヴァル・ノア・ハラリはいまおそらく世界中でもっとも注目されている歴史学者・哲学者だ。「ホモ・デウス」「サピエンス全史」は世界で累計2000万部を超えるベストセラーになっているし、NHK BSで特集が続くコロナ特集にも登場し、胸に突き刺さる提言を述べている。
彼が2018年に書いた「21Lessons〜21世紀の人類のための21の思考」は、いまのこの世界でもっとも耳を傾けるべき言葉が数多く書かれている、と私は思う。巣篭もり読書で一番私を揺さぶった一冊だ。
<テクノロジー面の難題><政治面の難題><絶望と希望><真実><レジリエンス>と5部の中で、
21の項目が並んでいる。扱われている<難題>は、幅広い。

AI、バイオテクノロジーが進化したその先に、人はどう生きていけばいいのか?
コミュニティ、国家、ナショナリズム、宗教、移民を政治的にどう扱えばいいか?
人類を滅ぼしかねない 戦争は起こるのか?
遺伝子工学とアルゴリズムによって、健康で豊かな生活が送れるようにリスクが取り除かれる世界になったとしたら、私たちはどんな人生を選択するのか?(その人生に生きる意味はあるのか?)
そして、私たちは次世代のためにいまどう生きればいいのか?

というような壮大なテーマが並ぶのだが、21のどの章をのどのページをめくっても、「我が事」として突き刺さってくる言葉がある。こういう本って、ともすると頭がいいえらそーな学者さんのご託宣みたいで、鼻白むことが多いし、だいたいにおいて硬い内容でそのうち眠くなっちゃって放り出してしまいがちなのだけれど、この本にはそれがなかった。かといって一気読みができるって内容でもなくて、実は10日間かけてじっくり読み、いまもまだ読み続けている。
内容が幅広く深いので、感想を書くのではなく、突き刺さった言葉を紹介していきたい。

 「権限が人間からアルゴリズムに移ると、私たちはもうこの世界を、自律的な個人が正しい選択をしようと悪戦苦闘する場と見なさなくなるかもしれない。その代わり、私たちは全宇宙をデータの流れと捉え、生き物を生化学的なアルゴリズムにすぎないと見て、宇宙における人類の役割はすべてを網羅するデータ処理システムを想像し、それからその中に溶け込むことだと信じるようになるかもしれない」(<テクノロジー面の難題>「幻滅」の章より)

人間の愚かさは、歴史を動かすきわめて重要な要因なのだが、過小評価されがちだ
「人間の愚かさの治療薬となりうるものの一つが謙虚さだろう。国家や宗教や文化の間の緊張は、誇大な感情によって悪化する。すなわち、私の国、私の宗教、私の文化は世界で最も重要だ、だから私の権益は他の誰の権益よりも、人類全体の権益よりも優先されるべきである、という思いだ。世界に占める真の位置について、国家や宗教や文化にもう少し現実的で控えめになってもらうにはどうしたらいいだろう?」
(<絶望と希望>「戦争」の章より)

「道徳とは「神の命令に従うこと」ではない。「苦しみを減らすこと」だ。したがって道徳的に行動するためには、どんな神話も物語も信じる必要はない。苦しみに対する理解を深めさえすればいい。ある行動が自分あるいは他者に無用の苦しみを引き起こすことが理解できれば、その行動を自然と慎むようになる」(<絶望と希望>「神」の章より)

「自分の偏見を暴き、自分の情報源の確かさを確認するために時間と労力をかけるのは、私たち全員の責任だ」
「今日の世界では、情報と注意は決定的に重要な資産だ。自分の注意をただで差し出し、その見返りの低品質の情報しか受け取らないというのは狂気の沙汰だ」(<真実>「ポスト・トゥルース」の章より)

2050年の世界についていくためには、新しいアイデアや製品を考えつくだけではなく、何よりも自分自身を何度となく徹底的に作り直す必要がある。なぜなら、変化のペースが速まるにつれ、経済ばかりでなく「人間であること」の意味そのものさえもが変化しそうだからだ」(<レジリエンス>「教育(変化だけが唯一不変)」より) 

「アイデンティティの探究に乗り出す人の大半は、宝探しをする子供に似ている。親が前もって隠しておいてくれたものしか、見つからないからだ」(<レジリエンス>「意味」の章より)

人類が直面している大きな疑問は、「人生の意味は何か?」ではなく、「どうやって苦しみから逃れるか?」だ。虚構の物語をすべて捨て去ったときには、以前とは比べ物にならないほどはっきりと現実を観察することができ、自分とこの世界についての真実を本当に知ったなら、人は何があっても惨めになることはない。だがもちろん、言うは易く行うは難し、だ」(<レジリエンス>「意味(人生は物語ではない)の章より)

自分には「自由意志」があって、人生を自由意志で選択している、というのは幻想にすぎず、その選択は実は生化学的な揺れにしかすぎないことが科学によって明らかにされ、スマホやネットで集められた私についての膨大なデータが勝手に分析されて、明日食べるものからコロナの感染防止をどうしたらいいのか、はてはいつ死ぬのかまでアルゴリズムが全部教えてくれる時代に、それでは人はどう生きていくのか。
ハラリさん自身は「瞑想」によって答えを見つけようとしているそうだ。
「あと数年あるいは数十年は、私たちにはまだ選択の余地が残されている。努力をすれば、私たちは自分が本当は何者なのかを、依然としてじっくり吟味することができる。だが、この機会を活用したければ、今すぐそうするしかないのだ」
この締めの言葉を噛み締めている。

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