外出自粛期間中に「孤独感に悩まされる」という高齢者の方たちからの声を聞いたので、「大丈夫よ」とか適当な対応してはだめだなと思い、本を読んでみました(→なんでもかんでも本に頼ってしまうのもどうかと思いますが)
「高齢者の孤独〜25人の高齢者が孤独について語る」
ビアギト・マスン&ピーダ・オーレスン編 ヘンレク・ビェアアグラウ写真 石黒暢訳
新評論
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福祉国で、世界一幸福な人が多い国と言われているデンマークの高齢者が語る「孤独」です。
読んでみて私が感じたのは「そうか、いくら福祉が充実していて、ケアも行き届き、コミュニティも緊密で、女性も自立しているところでも、高齢になると孤独を感じることが多いのだな」ということでした。
高齢者が孤独を感じるのは、どうやら場所と時代をこえて普遍的なことらしい。平均寿命が短かった時には、孤独を感じる前に亡くなっていたのでしょうが、人生100年時代、孤独への対処は大きな課題となっています。
そして高齢者が感じる孤独の原因も、平均寿命が80歳を超えるような国では共通している、ということがわかりました。

本書を読み、かつ私のまわりで孤独感を訴える高齢者の話を聞いて感じる高齢者の孤独の原因を、一番多いものから3つ挙げます。
1)仕事からリタイアして、社会的役割を失う
仕事のなかには育児や主婦業やボランティアなど、金銭を得ることを目的とした仕事以外のものも入るのだけれど、「収入を得ていた自分」の誇りと自信を失うことのほうがダメージが大きいようです。上手に仕事の第一線から引退していくことも必要だけれど、ほそぼそでもいいから社会的なつながりを持ち続けることも重要だと感じます。

2)転居する
子どもたち(圧倒的に娘)家族がいるから安心ではないかと、高齢になってから引っ越しをした人のかなり高い割合が孤独感に悩まされ、ひどい人は鬱になってしまう。とくに70歳を超えたら引越しなどせずに、住み慣れたところで暮らすことがいい、ということがわかりました。でもって私が驚いたのは、20歳くらいで離れた故郷(たいてい田舎)に戻った人の大きな割合が、孤独感から鬱になっていることです。50年も離れていたら、もうそこは帰るべき場所ではないってことですね。いくら実家に何回も帰省していたからって、そこは住むべき場所ではないということか、とさとりました。

3)家族や親しい友人を失う
これは高齢になればいたしかたのないことですが、親しい人が逝ってしまって感じる孤独はなかなか癒されないものらしいです。

そしてこの本には孤独をこうやって癒している(癒した)という話も出ていて参考になります。孤独感がふっと薄れていく、もしくは孤独とともに生きていく覚悟ができるときというのがあるのです。人によっていろいろですが、似通っていることもある。これは3位から挙げてみます。

3)自分もまだ人の役に立つことができると実感する。
一番わかりやすいのは、共働きの娘夫婦のために育児や家事の手伝いを定期的にするようになり、かつ時給をもらうことで自信を取り戻した、という人の話です。親子といっても金銭でサービスを提供することで、高齢者はずいぶん救われるみたいです。
ほかにも高齢者施設に入って自分よりももっとからだが不自由な人がいることを知り、その介護を少し手伝うことで張り合いが出た、とか、教会の清掃ボランティア(でも少しお礼をもらう)をするうちに癒されていったとかありました。

2)孤独を言語化して、適切な専門家に相談する
「孤独だ」「さびしくてたまらない」ということを誰かに打ち明けられたら、もうその段階でかなり孤独感から抜け出られている、そうです。まずは勇気をふるってカウンセラーなど専門家に相談すること。でも家族とか友人では安易な同情の言葉をかけられたり、叱責されたりするからかえってよくない。できれば自分の孤独についてSNSなりに書くのもよし。「こんなこと書いて弱い人だと思われるのではないか?」「みんなにうざがられて友人がいなくなる」という心配する人がいるけれど、それは杞憂で、同じように悩んでいる人から解決の手がかりをもらうことも多い、というのは、なんとなくわかります。

1)ささいな日常のできごとをたいせつにする
「孤独感がやわらいで、少しずつ立ち直っていった」と多くの人が語るきっかけは、日常のほんのささやかな出来事です。「朝起きたら晴れていて、ベッドに朝日がこぼれているのをみて生きていく元気がわいてきた」とか「飼っている犬の世話をしていることで癒されている」とか「庭の花が枯れそうになっているのをみて水やりしながら、まだ私は必要とされていると思った」とか。
もしかすると朝日や犬の世話や庭の水やりができるくらい元気を取り戻したから、それがきっかけと思えたのかもしれません。でも、日常の小さなことをたいせつにすることが、陥った孤独感から立ち直るきっかけを与えてくれる、ともいえます。

Go Toトラベル・キャンペーンをめぐってのすったもんだとか、クルーズ船の旅行は当分できそうにないとか、高齢者のための楽しみ(と高齢者による経済効果)がコロナ禍でどんどんと失われていきます。旅行に行ったからといって、高齢者の孤独が簡単にいやされるとは思えないけれど、でも旅行にいくという楽しみがあることで、張り合いが出ることはあったでしょう。
そんな中で、「日常のささやかな出来事に喜びを見いだせるか」ということが、これから高齢者が孤独をあまり強く感じないで生きていくための指針になるような気がします。それが「新常態」を生き延びていくための力にもなる。そう自分に言い聞かせています。