Glamorous Life

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読む快楽

「ゲルマントの方」I II

マルセル・プルースト著

鈴木道彦訳

集英社文庫ヘリテージシリーズ

 

昨年から「失われた時を求めて」を読み返しています。

読み返す、というと昔ちゃんと読んだみたいに聞こえるでしょうが、そうではありません。以前は面倒なところはすっとばして、おもしろそうなところだけを読んでいました。よく引用される有名なシーンとか、恋愛、性愛、愛憎のシーンとか。

で、今回もじっくり一語一語かみしめるようにというのではなく、やはりおもしろいところを拾って集中的に読んでいます。

ところが、10年以上前に読んだときとちがうところにひかれて、読み返すというよりもはじめて読んだ感ありです。

それに、年をとったおかげで、小説そのものだけでなく、登場人物の心理や行動に対する理解も深まった気がします。舞台は100年以上前のヨーロッパですが、いまの私が読んでも「人間ってほんと変わらないんだな」と共通点が見いだせる。とくに男女や親子関係はこれだけ世の中が変わっているというのに同じだし、バカな人間のバカさ加減はまったく変わらない。

いまになって初めて、この小説の読み方が少しわかってきたような気がします。登場人物と自分との距離がぐっと近くなったからかも。

それはまた、鈴木道彦さんの翻訳がすばらしいからで、「読みやすく、わかりやすく訳そう」という「心」が強く感じられます。

スワン、オデット、ジルベルト、ゲルマント公爵夫妻、フランスワーズ、アルベルチーヌ、ヴィルパリジ夫人、シャルリュスといった主要人物に対する語り手の辛辣さと底意地の悪い見方が、以前はなんかいけすかなかったのですが、今度読み返すとその辛辣さの陰にある「人に対する哀しみ」みたいなものが感じられて、妙に共感します。そう、以前は語り手が嫌いでした。いやなヤツだと思っていました。でも、今回は「う、そこ、わかる。鋭すぎる」と思うことが多い。

食べるために働くという意味の「労働」からまぬかれたとき、人は生きていく目的をどこに見出すのか。ただ集まるために集まるパーティ、空気の読み合いに切磋琢磨するサロン、知っているということだけが重要な教養のための教養。あらゆることが自己目的化してしまったことで時間をつぶしていく話を読んでいると、人間ってほんとにおもしろいと思います。

まだこのあと第四編の「ソドムとゴモラ」があるのですが、「ゲルマントの方」がもしかしたらこの長い長い小説の圧巻なのではないか、という感想をもっています。有名なのは「スワン家の方」なのでしょうが、「スノッブ」を描ききったという意味ではこの巻なのかなあ。



このたびブログにして、ケータイからも読んでいただけるようになりました。よろしければBOOKMARKしていただき、思いきりヒマなときに閲覧ください。ちなみにこの書き込みはテストも兼ねて、ケータイから書き込んでいます。画像も実験で入れてみます。 ケータイ用 URL http://www.motoko3.com/ktai/ QRコード motokoqr.png

『ヴァギナ・モノローグ』
イヴ・エンスラー著
岸本佐知子訳
白水社

 今週末に「性を語る」という座談会に出席することになっていて、錚々たるメンバーを見てくらくらきているところです。
 何を語ればいいのか......たぶん99%聞き役になりそう。圧倒されそう。
 で、最近読んだ性にまつわる本を探していて、一番印象に残ったのがこの本。
 イヴ・エンスラーは劇作家で詩人。ヴァギナについて200人の女性にたずねたインタビューをもとに「一人芝居=モノローグ」を書き、1996年からソーホーの劇場で上演しました。その舞台は大あたりで、賞もとり、いまも世界中でロングランを続けています。
  この本はその作品をもとに、エンスラーがインタビューした女性たちのエピソードやヴァギナについてのさまざまな問いかけとその答え、新聞記事のクリッピン グなどを集めたもの。断片的なものが連なっているのですが、読みとおすとそこから浮かび上がってくるのは、女性の「性」について真正面から(あまりにも真 正面から)対峙したときの素直な感動です。フェミ的立場からだったり、恋愛がらみだったり、思春期や妊娠や更年期といった婦人科系の話だったりすることは あっても、ごくふつうにヴァギナと対峙することは女性にはないんじゃないでしょうか?
 対峙して「感動」なんてあるのか? という人こそ、この本を読んでほしいと思います。
 たぶん男性たちはあまり感動しないと思う......っていうか嫌いなんじゃないかな。そもそも男性は「対峙するのは、男だけに任せといてほしい」とか言い出しそう。
 それはともかく、そういや渋谷のブックファーストでこの本を買ったとき、レジカウンターの若い男性の店員さんの手が一瞬留ったような気がしたのは私の気のせいでしょうか? たぶん気のせいね。

 今日は次女の誕生会で、お友だちの若いきれいなお嬢さんたちがどっといらっしゃいました。パーティーのメイン料理はコート・ダニョー。ケーキも果物を満載したのをつくりました。20歳。ぱーっと花開くような年齢ですね。

「モンテ・フェルモの家」
ナタリア・ギンズブルグ著
須賀敦子訳
ちくま文庫

 一気に読み終えました。教えてくださってありがとう>Matsunoさん。
同じ著者・訳者の「ある家族の会話」もすばらしい作品・すばらしい訳なのですが、こちらもすばらしかった。
 60年代、モンテ・フェルモ(不動の山、という意味)にあるマルゲリーテの館に集まっていた若者たちが、中年になって自由奔放の生きてきた青春時代の代償を払いながら生きていく、と、簡単にいってしまえばそういう内容の小説です。
  書簡集で書かれているので、人間関係が最初つかみにくい。何人もが複雑に関係しあっていて、感情も絡み合うのですが、キーワードは「モンテ・フェルモの 家」です。彼ら彼女らが青春を送ったその場がずっとありつづけるはずだったのに、がらがらとくずれていってしまう悲劇が描かれます。
 主人公は2人の男女。
 イタリアでの生活をすべて捨てて、ローマの家も売って、アメリカの兄のところに身を寄せようとするジュゼッペ。
 マルゲリーテの館で暮らしているルクレティアは、ピエロという夫と結婚生活を送り、4人の子どもをもうけているが、ジュゼッペと一時期愛人関係にあったという女性。
 2人にからむのが、ジュゼッペが誰かに産ませたけれどいっさい面倒を見なかった息子。ルクレティアと不倫する男。その男の愛人。みんなの面倒を一手に引き受ける母性愛に満ちた女性。
 ほかにもいろいろ出てくるのですが、全員が「ここではないどこかに自分の居場所があるはずだ」と思いこんでいる。それが悲劇の元凶です。
 ジュゼッペはそう思ってアメリカに行くし、ルクレティアはそう思ってモンテ・フェルモを捨ててローマに行く。
 でも、どこにも彼らの居場所はないのです。
 居場所をつくるんは「家」という物理的空間ではない。
 「家族」という関係性でもない。
 どんなに退屈であっても、わずらわしくても、自分で「居場所」をつくって、そこに責任を負わねば「居場所」に落ち着けないのです。
 でも、いい歳をして誰もそれに気付かない。というか、気づきたくない。
 読み終わって、なんだかとても哀しくなりました。
 デラシネ、という言葉が浮かびました。

 読後、どうしても須賀さんの翻訳がもっと読みたくなって、また「マンゾーニ家の人々」を引っ張り出してきています。
 ナタリア・ギンズブルグも、イタリアの詩人のサハも、ユルスナールも、須賀さんがいなければ私は知り合えなかった。
 あらためて須賀さんのすごさを感じました。

夕飯は豚汁、ほうれん草のたまごとじ、お寿司

おもしろかった本、ほかに3冊ほど。
『生物と無生物のあいだ』福岡伸一著 講談社現代新書
駅構内の書店に平積みされているベストセラーは基本的に読まない(読みたくない)のですが、その日、新幹線新大阪駅で「読む本がない!」ことに気づいて、時間がなかったので大急ぎで買ったのがこの本。
で、たーいへんにおもしろく、2時間あっという間でした。
分子生物学という、私には理解不能なはずの学問を、これだけおもしろく惹きつけて読ませる力量はたいしたもんだ。
生命とは何か?
生きていく、とはどういうことなのか?
それまで考えたことがなかった視点から「生」を考えるヒントを与えられました。
分子生物学を理解したかどうかはともかく、考え方として学ぶ点が多々ありました。

『越境のとき--一九六○年代と在日』鈴木道彦著 集英社新書
この日記にも書いたのですが(2007年6月7日付)、衝撃を受けた本の1冊でした。
フランス文学者で、プルーストの訳者である鈴木氏が、人生の大半にわたってかかわってきた在日の問題を語っていらっしゃいます。
「か かわる」とはどういうことなのか? という命題をつきつけられた本でした。そうか、「かかわる」の反対語は「逃げる」なんだ、と気づきました。「かかわ る」ことのたいせつさと、「逃げる」ことの卑怯さ。自分はそれがちゃんとわかっているのだろうか、としばし問いかけます。
読んでほしい本の一冊。

『ユルスナールの靴』須賀敦子著 河出書房文庫
マルグリット・ユルスナールの評伝ともエッセイともつかない本で、今年読み返した須賀氏の本(アントニオ・タブッキとナタリア・ギンスブルグの訳書もふくめて)のなかで、一番心を打った一冊。
この本を読んだのをきっかけにユルスナールの代表作で傑作『ハドリアヌス帝の回想』を読んでいるところです。

夕飯は肉じゃが、鶏ひき肉団子入り野菜スープ

ところで......がんばっているんだけrど、ぜんぜんやせないよっ!

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