読む快楽

活字中毒患者です。朝15分読まないと起き上がれない。最低1時間読まないと眠れない。夢中になって読んだ本を教えずにいられない。おもしろい本、 常時募集中!

「魚化龍」

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昨日は、書道の練成会なるものに参加させてもらって、一日中書き続けてきました。

新しいお題は「魚化龍」

「三級浪高くして、魚龍と化す」――『登龍門』のもとになっている禅語ですね。志しを高く持てば、無理と思う課題も越えていける、というお話。

でも、私の書く字は先生から「そんな魚じゃ金魚鉢も越えられない」と言われました。

書けば書くほどわからなくなってきて、何をどうしたらいいのか行き詰まりです。

提出期限が迫るなか、ちょっとあせっています。

 

知り合いの人が、朝、会社で電話をとったら、今年4月に入った新入社員からで、いきなり「会社を辞めます」と言われたそうだ。

とにかく電話だけじゃダメだ、必ず来社して手続きをしなさい、とさとしたらしぶしぶやってきた。

当然ながら「どうして辞めるのか?(辞めたいのか、とは訊かないそうだ、もう)」と訊くと

「思っていた仕事とちがうから」

その話を出張にいった先で、企業や病院のトップが集まっているところで話したら、全員がふかーくふかーくうなずいて、「ここ5年くらい、新入社員研修が終わってすぐに辞める人が何人か出るのは恒例です」とか「もう最近は引き留める言葉をいっさいかけませんね」とかおっしゃっていた。

そして全員が口をそろえて言った。

「おまえに合う仕事なんか100年探してもないわい。おまえが仕事に合わせるんだ!」

いや、ほんとに、そのとおりだ。

自分に合う仕事を探そう、なんて、仕事をしたこともない人間が言っちゃいかんね。

出張から帰ってきて、ふと手にとったのが『雅子さまと「新型うつ」』(香山リカ 朝日新書)という本。

これまでとちがったタイプの「うつ」が出てきている、という話で、それが雅子さまの症状に似ているのではないか、という内容だ。そこで思わずかくかくうなずく箇所があった。

引用してみる。

(総務部に異動になって「うつ」になって休職していた30代女性が、希望の部署に異動になって働き出したものの、2か月でまた発病した、という例をひいて)

「「英語が得意でコミュニケーション力もあり、海外との交渉もタフにこなす」というのは、もしかすると彼女だけの自己イメージであって、客観的な実力とはかなりズレがあったのではないだろうか。つまりそれは、「こうありたい自分」であって、決して実際の姿ではなかった、ということである。

仕事で自己実現したい、と望んでいる人は、しばしばこの問題で落とし穴にはまる。

つまり、自己実現というからには、それはそう呼ぶに足るほどのかっこいい仕事、目立つ仕事である必要がある。(中略)

しかし、(中略)個性的な仕事、オリジナリティあふれる仕事は、それだけハードルが高い。知識、忍耐力、持続力、柔軟な心に体力などなど、要求される能力は数限りない」

そうなんだなあ。

私も30代のころまで、「仕事で自己実現」なんて思い、あせっていたことがあった。自己実現している手ごたえがなかなかえられなかったから。

だが、あるとき気がついた。どんな(つまらないと思えるような)仕事もたいせつな仕事であるという心構えでいかないと、足元をすくわれる。誰かに評価されてもらいたい一心で仕事をしてしまっては、必ず挫折するな、ということだ。

私はよく「淡々と仕事をしよう」と自分に言い聞かしている。この仕事がすごく好き~~とか、情熱を捧げている~~とか思いこみ過ぎてしまうと、がっくりくることが多すぎる。毎日、ノルマを決めてそれを淡々とこなしていくこと。淡々とこなすことに、達成感をおぼえて励みにすること。仕事に使われず、仕事によりかからず、仕事に期待しすぎないこと。(私のいう仕事のなかには、家事も入っている)それができるようになってはじめて、「この仕事は自分に合っているかもしれない」と思えるのかな。

 

今週は始まったと思ったら終わってました。

毎朝、めざましがわりにクラシック音楽番組がかかるようになっているのですが、朝とはとても思えないほど重かったり、激しかったりする選曲でびっくり一気に目が覚めます。今朝なんか、ヴェルディのレクイエムでしたよ。朝から葬式の合唱かよ~。せめてアイーダにしてくれ。いや、レクイエムは好きなんですよ。ふだんでもCD聴きますよ。でも、朝からはなあ。

そんなことが言いたいわけではなく、レクイエムを聴きながら「で、今日は水曜日くらいかな」とずるずると起き上ったんですよ。「水曜日......資源ゴミの日だな。あと生協の日か......ん? 生協はつい一昨日きたような......むむむ、今日は金曜日じゃないか!」

なんだかガックリきました。

今週は何もしないうちに終わってしまった......ような気がします。

少なくとも、ノルマは終わっていない。締切は片付けたが。

明日から出張です。会議の資料もまだできていない。

なんていうかね、時が過ぎゆくのを手をこまねいて見ている自分なような。

とりあえず、今週読んだ本を書いておこう。

「書の歴史」上下巻(講談社 魚住和晃編著 マンガと文章と写真で構成された本。マンガの絵はひどいんだけれど、中身はちゃんとしていて、あまり知らなかった宋、元の時代の書がわかった)

「一茶」藤沢周平(文春文庫)読み終わってから、一度読んでいたことに気づいた。やれやれ。句集がよかったからつい手にとってしまったのだが、俳句とちがう一茶像で、ちょっとイメージが崩れた。

「現代アート、超入門」藤田令伊著(集英社新書)

「京都美術鑑賞入門」布施英利著(ちくまプリマー新書)

「非モテ」三浦展著(文春新書)

「新平等社会」山田昌弘著

「江戸モードの誕生」丸山伸彦著 角川選書

あー、仕事関連の本ばっかだなあ。

 

「流れる」

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「流れる」

幸田文著

新潮文庫

 

 実は最近、幸田文が静かにマイブーム。「おとうと」「雀の手帖」「みそっかす」「父・こんなこと」に続いて読んだのがこれ。

主人公の梨花さんは、その華やかな名前があまり似合わない40過ぎの未亡人で、子どもと夫を亡くして一人で身すぎ世すぎをしている。東京の、たぶん深川の芸者置屋に女中として雇われ、つぶれそうなその置屋の女主人一家を支えて、最後はその置屋で商売を始めることになる、というあらすじ。

いや、これはもうあらすじなんか必要がない物語で、ただひたすら「しろとさん」の梨花が、色街の女たちを観察し、反発したり、あきれたり、おもしろがったりする記録みたいなものである。自分が「しろとさん」だと思っている梨花だが、実は素人という一般社会から自分がはねのけられていることがわかっていて、もうそこには帰れない、帰りたくない、なんとか別世界である色街へと入り込もうとする、そこがこの小説の醍醐味であり、せつなさでもある。

染香という年増芸者がきわだっている、と私は思った。たぶんアラフォーの染香姐さんは、三味線はすごくうまいのだけれど、さして美しくもなく、性格はせこいし、口は悪いし、頭もいまひとつ。しかもうんと年下の男が好きで、いれあげたあげく借金まみれになり、踏み倒すほどの度胸もないくせに、主人に言われるとつい新しい着物をつくって、ますます借金をふくらましていってしまう。

梨花はそんな染香さんのことを「どうしようもないなあ」とか思っているのだけれど、ふとしたときに見せる芸人としての厳しい表情や、かわいい面にひかれて、憎めないなあとため息をつく。

気働きができて、やさしさがあって、賢くて、教養もあって、分をわきまえていて、自分が見えすぎるほど見えている梨花が、一度読んだときには鼻について、なんだこの女、とか思っていたのだけれど、染香姐さんと対称がとれているのに気づいて、いとおしくなった。

それにしても......女ってほんとこわいよなあ、とちょっとぞくっとする小説である。

ここまで女のいやらしさやえげつなさを描いて、なおかつ読後にどの女性も美しく、かわいく、いとおしく思わせられるなんて、いやはや、幸田文こそこわい。

 

今をときめく勝間和代さんの文春新書。

いただいたので、読んでみました。

自己啓発本かな? 感想は差し控えます。

が、このタイトルで私は思ったことがありました。

私は自分がフェミニストだと思っているのですが、実はぜんぜんイケてない、突破も何もできていないうじうじとした前近代的男尊女卑文化の残党ではないか、と思うことがあって、それはどうしても夫に素直に「家事をして」と言えないことです。

夫は団塊の世代生まれなので、「男の子も家事をする」という育てられ方をしてこなかったこともあり、家事がたぶん苦手なんだと思います。でも、団塊の世代で、それなりにフェミニズムの影響は受けているので、「やって」と頼まれればやらないこともないわけです。だから「やって」と言えばいいのですが、それが私は言えない。非常に抵抗がある。黙ってやってもらったらものすごくうれしいくせして、「やって」と言ってやってもらっても全然うれしくなく、後ろめたさと苦さがじんわり残って、3日くらいもんもんとしてしまうのです。

これはいったい何?

子どもたちが小さくて手がかかり、仕事もほんと忙しくて時間がまったくなくていらいらしがちだったときも、私はどうしても夫にストレートに「やって」と言えなくて(「お願いします。すみません。ほんと申し訳ない」とかくでくで言ってしまい、やって「いただいた」ときには、盛大にお礼を言う。めんどくさいし、ある意味屈辱なので頼めなくなる。夫は何もそういうことを期待していないと思う)、ただ胸の奥にふつふつと「なんでやってくれないんだ」「なんで私ばかり」と怒りだけがたまって、夫に対してつねに不機嫌で、洗濯とか掃除とかそういうツマラナイことでつんけんする自分に自己嫌悪でほんといやでした。いや、今もまったく同じですが。

そのとき、家事のアウトソーシングをしていて、一週間に一回、掃除と洗濯をお願いしていたのですが、そのおカネを自分の給料から支払っている、ということを自分に対する言い訳にしていました。つまり、働く私ですが、夫には家事をしないことによる負担をかけていない、と。今から考えると、フェミニストを名乗っていて、まったくの論理矛盾なのですが、ま、若くて頭がまわらなかったのだと思います。

ごはんをつくっていて、たとえば肉でも魚でも、一番大きくて立派なのは「それはパパのにして」と盛りつける娘に言い、娘もそれを当たり前と思い、「今日は夫がいるから、3品はつくらないとな」と思って1時間かけるのに、娘と自分だけのときは「簡単にすませちゃおう」と2人(か3人)で15分くらいで適当につくる。夜、部屋が散らかっていると「パパが帰る前に片付けなさい。早く」と娘たちに命令する。何なんでしょう、この心理は。何なんでしょう、この矛盾は。

「断る力」――そんなになにもかも一人でできない。それにやりたくない。あなたもやって。それが言えたら、もっと笑顔で生活できる気がします。ただ、もう私は無理だな。身に沁みついてしまったものがあるから。

でも、娘には上手にそれが言える知恵と力を授けておかないと、将来、私の二の舞だな、と思います。

The Road

コーマック・マッカーシー

黒原敏行訳

早川書房

 

映画「ノーカントリー」の原作「血と暴力の国」で有名な作者だが、私は本書と同じ訳者による「すべての美しい馬」が好きだ。これはあるブログで絶賛されていたのですぐに読んだのだが、2日くらいストーリーに酔った。いい小説を読んだ、という満足感がひたひたと胸をひたした。いまでも「すべての美しい馬」は私のたいせつな本の一冊だ。

そして本書。父と息子の哀しい、でも美しい物語だ。

舞台は、核戦争か何かで人類がほろびかけている地球のどこか。

どこにいってもすべてが焼けただれ、生命のしるしも見えない荒野が広がるばかり。寒さを逃れて、南にいこうとカートをひいていく父と息子。周囲にいるのは、生命あるものは、子どもだろうが、親だろうが、殺して食べてしまうという人間ばかり。なぜ生きていかねばならないのかわからないような状況のなかで、父はひたすら息子を守り、息子を生かすことを自分が生きていくための力とする。実は息子もそうだ。もう死んでしまいたい。死んだほうがずっとらくだし、生きていくことの意味が見いだせないという状況でも、息子はひたすら父のために生きようとする。

父と息子の会話が主柱となるこの小説は、よけいな説明がない。父子が本当のところは心のなかでどんなことを思っているのか。2人の間に流れるものが何であるか。そういう言葉は一言もない。ただひたすら生きること。いまこの瞬間を生き延びること。その瞬間、2人がお互いを生かすこと。それだけが短い会話のなかで語られる。そういう言葉は強い。そして、哀しい。

涙が流れるようなシーンはない。でも、ずしんと響くものがある小説だ。

こういう小説はすばらしい。もしかすると、認める人は少ないし、何がすごいのかわかる人も少ないだろうけれど、でもすばらしい小説だ。

そして訳文のすばらしい。

けずりとって、芯のところだけがしっかり残っている言葉が並んでいる。美しい。

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motoko
 人生でたいせつなものは本とサッカーと料理とファッションに教えてもらった、などと言ってみたいモノカキの日常

PROFILE

 職業はモノカキ/翻訳業。書いていきたいテーマは「女」「子ども」「衣食住」。得意技はなんでも一晩寝ると忘れること。

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