読む快楽

活字中毒患者です。朝15分読まないと起き上がれない。最低1時間読まないと眠れない。夢中になって読んだ本を教えずにいられない。おもしろい本、 常時募集中!

今年はいろいろなことがありました......と書きたいところですが、あまりにもいろいろなことがありすぎたせいか、一年を振り返ろうにも記憶が混乱していてまとめられません。気がついたら1年が終わろうとしていてあせった......というか。

これまで私は「何事もがんばれば(努力すれば)なんとかなる」とどこかで思い込んでいたところがありました。でも、がんばるチャンスさえ奪われる、もしくは努力するチャンスがもともとないこともあるし、努力して結果が出ることは実は非常にまれである、と思い知らされることが多い一年でした。だからといって無気力になったり自暴自棄になったりしていいわけじゃないですけれど、あきらめる勇気を持つこともこれからは必要なのだろう、と今は思っています。いくら努力してもどうにもならないことのほうが多いのだけれど、それでもやっぱり努力はしていきたいな、というところかな、心境としては。あ~ややこしくってもどかしい。

仕事は今一つでしたが、相変わらず書道にはのめりこんでいるし、中国語のレッスンもなんとか続けているし、太極拳を始めたし、前からひそかに一人でやっていたジョギングを娘と一緒に走るようになったし、趣味は本当に充実していました。問題は健康面で、ちょっと忙しくなると「あれ? あれれ?」と思っているうちに病名がつく病気で医者にかからざるをえなくなることしばしば。ほんと、気をつけなくてはなりませぬ。

来年は健康に気をつけて、仕事をもう少しなんとかしたいです。あせらず、あわてず、あきらめず。こつこつとやっていく一年にしたいな。

今年もグラマラスライフを訪れてくださり、本当にありがとうございました。

また来年も(来年は)楽しく明るい話題を書いていきたいです。

来年もまたどうぞよろしくお願いいたします。

2012年が皆様にとって、より発展する希望に満ちた一年となりますことを心よりお祈り申し上げます。

「争うは本意ならねど――ドーピング冤罪を晴らした我那覇和樹と彼を支えた人々の美(ちゅ)らゴール」

木村元彦著

集英社インターナショナル

 

 読みながら3回泣いた。紹介文を書こうと先ほどもう一度ざっと読みなおして、また涙がこみあげた。それくらい心が揺さぶられる本である。

 ただし、涙を流したうちの1回の原因は怒りである。憤りと言ってもいい。一人のJリーガーに冤罪を負わせた人たちへの憤りだ。

 そして冤罪をうやむやにしないで欲しいと願った浦和レッズ、仁賀ドクターが我那覇選手に出した手紙を読みながらこぼれた涙は、その勇気と心の温かさに対しての感動からだ。

 最後にCASに訴えた我那覇選手を支えた「チーム我那覇」の皆さんが、「我那覇選手はシロ」と出たときに喜ばれるシーンでは「スポーツは、サッカーはまだ信じられる」という思いから安堵の涙がこぼれた。

 この「事件」を知らない人のために説明すると、2007年川崎フロンターレ(当時)の我那覇選手は感冒から体調を崩し、練習後にチームドクターの診察をあおいで、ビタミンB1を入れた生理食塩水の点滴治療を受けた。そのころフロンターレはACLとJリーグの試合を過密日程気味にをこなしており、チーム内のレギュラー争いも激しかった我那覇選手は体調が思わしくないのを無理して練習し、試合に出ていたのだが、それも限界に来ていてやむなくこの治療を受けたのだという。

 ところが、「風邪をひいたので点滴治療を受けた」とサンケイスポーツの記者に話したところ、翌日「我那覇 秘密兵器、にんにく注射でパワー全開」という見出しで記事が出てしまい、それを重く見たJリーグが「ドーピング違反だ」ということで本人やドクターの話を何も聞かないうちに「6試合の出場停止」という厳重処分を下した。

 私はこのときの一連の記事を今でもはっきり覚えている。「にんにく注射って何? なんかあの我那覇選手とこういう記事は似合わないなあ」とかすかな違和感をおぼえていたら、あれよあれよという間に厳重処分。

 その後、我那覇選手が個人としてCAS(スポーツ仲裁裁判所)に「ドーピング違反ではない」と訴えたことがニュースでも取り上げられ、涙をこぼしながら「子どもが大きくなったときに、お父さんがドーピングをしていたのかと思われたくない」と記者会見で訴える姿を見て、やっぱりおかしかった、という思いを強くした。そのことはこのブログでも書いた。その後私も、裁判費用(3400万円以上。我那覇が自己負担した)をまかなうために彼の仲間たちが起こした「ちんすこう基金」にわずかではあるけれど寄付したり、興味を持って成り行きを見守っており、そして案の定とも言うべき「シロ」の裁定が下ったときにはひそかに祝杯をあげた。

 本書はそんな「冤罪」がなぜ起きたのか、経緯を念入りな取材で浮かび上がらせる。そしてJリーグのドクターたちが「この処分を見逃していたら、選手の怪我や病気の緊急時に治療ができなくなってしまう」という危機感から立ち上がり、「ドーピング規定」を明確にすることに尽力した姿が描かれる。冤罪の原因となったのが、浅はかとしか言いようがない名誉欲や権力欲からくる保身だ。それに対して「おかしい」と声をあげるドクターたちと我那覇選手自身の勇気と潔さが、よけいに際立つ。最初に「冤罪」の原因をつくった上に、詭弁を弄して非を認めない人々への憤りから歯ぎりしりをしていたのだが、読み進めるうちに「チーム我那覇」の皆さんの勇気とがんばりに温かいものがひたひたとこみあげてきた。

 でも、憤りは消えない。Jリーグは罰金として川崎フロンターレに科した1000万円を一刻も早く返還すべきだし、関係者(サンケイスポーツの記者も含む)は全員我那覇選手と後藤ドクターに謝るのが人としての筋だと思う。組織が、形式が、規則が、とか言う前に、まず守らなくてはならないのは自分の身ではなく選手ではないだろうか。そもそも選手を大事にしない組織って何なんだろう?

 2007年のあの記事のときからくすぶっていた疑問を、本書は見事に解き明かしてくれた。この本を勧めたらさっそく読んだサッカーファンからこんな感想をもらった。

「我那覇選手はJリーグを救いましたね。救われた方々はそれに気づいていないようですが」

 我那覇選手だけではなく、この本を書いた木村元彦さんもJリーグと、そのファンと、そして日本のサッカーを救った、と思う。そのことに感謝したい。

 

左側のコラムでもご紹介しておりますが、新刊が出ます。(12月10日発刊)

「サッカーと独裁者――アフリカ13か国の「紛争地帯」を行く」

スティーヴン・ブルームフィルド著

実川元子訳

白水社

 

チュニジアのチューリップ革命に始まった民主化運動で今注目のアフリカを、サッカーを通して読み解こうとするルポルタージュです。サッカーのことよりも、政治と紛争に軸足を置いた内容。アフリカの「いま」がわかるだけでなく、揺れ動く世界の一端がつかめる一冊です。

悲惨なエピソードも紹介されているのですが、サッカーの現場から眺めた世界なので、どこか面白味があります。著者の性格にもよるのでしょう。いまだに「暗黒大陸」とされているアフリカを、こういう視点から見ることも重要なのではないか、と訳しながら思いました。

新刊&セミナーのお知らせ

新刊 「サッカーと独裁者」

アフリカ13か国の
「紛争地帯」を行く
スティーヴ・ブルー
ムフィールド著
実川元子訳
白水社
英国人の著者は
2006年より特派員と
してケニアに在住。ア
フリカ25カ国を取材し
た。多くの宗教、部族
が共存する複雑なア
フリカ事情を理解する
手段として、著者はサ
ッカーを通して取材し、
有力者や市民たちから
多様な本音を聞き出す
ことに成功した。グロー
バル化と民主化運動に
よって生まれ変わろうと
する新生アフリカの深部
に分け入ったルポ。

新刊 「MESH」

「メッシュ
すべてのビジネスは
<シェア>になる」
リサ・ガンスキー著
実川元子訳
モノがあふれて片づけら
れず、使いたいときにす
ぐに出てこない。
最近モノよりコトのほう
が重要になった。
ソーシャル・ネットワー
クもふくめコミュニティ
のつきあいをたいせつ
にしたいと思う。
そういう人にはぜひ読
んでいただきたいのが
この本。
「モノ」より「つながり」、
「使い捨て」より「借りて
まかなう」それが私たち
の生活だけでなく、地球
だって救う。
人間関係から環境問題ま
で、今問題になっているこ
との解決の糸口が見つけ
られ、未来に少しだけでも
希望が持てます。

新刊 「菊とポケモン」

アン・アリスン著
実川元子訳
世界中で人気を集める日本
のアニメやマンガなどのポッ
ップカルチャー。その人気は
どうやってつくられたのか?
米国民族学者が戦後から
現代にいたるまで、子ども
の想像世界を形づくるキャ
ラクターや玩具を歴史的に
追いかけ、グローバルな
人気を獲得した謎に迫る。
米国の大衆文化との比較
が興味深い。

新刊 「サッカーが勝ち取った自由」

チャック・コール著
マービン・クローズ著
実川元子訳
2010年サッカー・ワール
ドカップが開催される南アフ
リカ共和国は長く人種差別
政策、アパルトヘイトが敷か
れていた。圧政と闘い、投獄
された男たちは、生きるため
未来への希望をつなぐため
にサッカーリーグを結成する。
スポーツで自由を勝ち取った
男たちの知られざるノンフィク
ション。W杯のもう一つの真
実が見えてくる。

新刊 人はなぜSEXをするのか?

人はなぜSEXをするのか(小).jpg
「人はなぜSEXをするのか?」
シャロン・モアレム著
実川元子訳
アスペクト
なぜ浮気をしてしまうのか?
絶対不可欠のモテ要素とは?
「生涯の伴侶」を見つけるた
めに必要な感覚は?
私たちの何気ない選択に実
は自然の力が働いている。
気鋭の進化生理学者が遺
伝子、脳、身体、心理のあ
らゆる面から性の謎を解
き明かす。

新刊 英国のダービーマッチ

英国のダービーマッチ(mini).jpg

「英国のダービーマッチ」
ダグラス・ビーティ著
サイモン・クーパー序文
実川元子訳
白水社
英国8都市のライバル関係に
あるサッカークラブ同士で行
なわれるダービーの歴史を背
景に、クラブや市の関係者、
サポーター、ファンから一
般市民のダービーに寄せる
思いを描きだす。ナショナル
ではかれない「ローカル」
の発想を知るうえでも
好著。
motoko
 人生でたいせつなものは本とサッカーと料理とファッションに教えてもらった、などと言ってみたいモノカキの日常

PROFILE

 職業はモノカキ/翻訳業。書いていきたいテーマは「女」「子ども」「衣食住」。得意技はなんでも一晩寝ると忘れること。
since2000.5.19.
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